学校を卒業した後に就職して会社で定年まで勤め上げるという常識は過去のものになりつつある。リタイアするまで転職することが当たり前となる人材流動化時代に、優秀な人材を獲得し、つなぎ留めるのはどんな職場なのか。企業の事例や人事部門の責任者の声を紹介しながら考えていこう。多数の経営人材を輩出することで有名なサイバーエージェントの曽山哲人・取締役(人事統括)に話を聞いた。
(聞き手は篠原匡)
曽山さんは2005年から15年以上、人事の責任者として採用に関わっています。まず、その間の採用マーケットの変化についてお聞かせいただけますか。
サイバーエージェント曽山哲人取締役(以下、曽山):この15年の変化について言うと、ポイントは3つあると思っています。まず、オープンな会社であるほど採用がうまくいくようになっていること。次に、会社の価値観に合う人を採用する重要性が上がっていること。最後に、才能開花の競争が始まっていること。この3つです。

大事なのはエントリー数より確実に受けてくれる学生
どういうことでしょうか。
曽山:今は会社の内情がどんどんバレる時代です。ハラスメントも同様で、面談の様子は録音されるし、録画される。例えば、面接での質問や面接官の名前はLINEの就活グループで瞬時にシェアされています。曽山の前で「新規事業をやりたいというと深掘りされるから気をつけたほうがいいよ」というようなやり取りが普通に交わされている(笑)。
この流れにおびえている企業と、「ラッキー、チャンスが来た」と思っている会社に分かれているように思いますね。オープンに会社の内情をさらしてもいいと思っている会社は胸を張って今の流れに乗ればいい。逆に、対外的に発信していることと中身が違えば、すぐにバレて炎上してしまう。
ウチの会社? 全然問題ないですよ。当社は完全にオープン。何ならオープンバトルしたいくらいです。
価値観と才能開花についてはどういう変化がありますか? 価値観に合う人材を採るのは昔から重要だったように思います。
曽山:確かに昔もそうでした。ただ、その重要度がより上がっているように思います。基本的に、今の時代は転職が簡単になっているわけでしょう。だとすれば、少しでも会社の価値観に合う人を採用して、長く働いてほしいと思うのは当然です。
採用にあたっては、会社説明会のエントリー数が人事のKPI(重要業績評価指標)になっている会社は今も少なくないのではないかと思います。2005年に私が人事に来たときもそうでした。
ただ、4年後の2009年にエントリー数を見るのをやめて、サイバーエージェントを確実に受けてくれる学生の名前を書いたリストを作るようにしました。単に数を集めるのではなく、一人ひとりと向き合うほうが価値観に合う人材を採用できると考えたからです。結果的に、これは正しかったと思います。
最後の才能開花はどういう意味でしょうか?
曽山:今の学生と接していると、「自己成長」という言葉が頻繁に出てきます。サイバーエージェントに入ると本当に成長できるのか、自分をどれだけ成長させてくれるのか、という視点で会社を見ているんです。逆に言えば、自分の才能を開花させてくれると思う企業にはどんどん人が集まってくる。
背景にあるのは、危機感だと思います。
私は1974年生まれで、就職活動の時期は就職氷河期のまっただ中でした。バブル崩壊後の不良債権問題と金融危機があって、会社はつぶれるものだという理解が一般的になりました。国全体で見ても、成長率の低下と高齢化でポジティブなストーリーが描けなくなった時代です。
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