
いままでのやり方を踏襲していても、未来はないような気がする。経営層や上司は答えをもっていないまま変革やイノベーションの号令を出しているが、実際に現場で行っている施策は小手先の変化としか思えない。本当は、根本的に新たなモデルをつくらないといけないのではないか。
僕は戦略デザイナーとして、2015年に共創型戦略デザインファーム、BIOTOPE(ビオトープ)を創業し、IT、放送、メディア、キャラクター、スポーツ、食、まちづくり、宇宙など、さまざまな分野の“未来創造”にかかわってきた。企業において“イノベーション活動”と呼ばれる取り組みは、冒頭のようなことを感じたひとりの人間のモヤモヤした気持ちが、妄想へと発展し、その青写真を描くために構想を練ることから始まるケースがほとんどだ。
BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー
大学院大学至善館准教授

創業当初、このモヤモヤをバネにした創造のムーブメントは、まだ企業や組織の辺境で一部の感度が高い人だけが感じていたものだったのが、いまやブームとなって裾野が広がり、一気にイノベーションはメジャー化した感がある。この背景には、冒頭のようなモヤモヤのエネルギーが日本中のビジネス界を覆い、蓄積されていたこともあるのではないか。これはなにもビジネスの世界に限ったことではない。教育や医療などの公益性の高い分野でも、こうした活動が浸透してきている。
イノベーションをメジャーに押し上げる原動力となったのは、起業家、企業内起業家(イントレプレナー)、社会起業家など、自らの想いを羅針盤にして、新たなモデルを実践し始めている挑戦者たちだ。さらにここ10年で、スタートアップの生態系が育ち、大企業とともに新たな協業をする環境が生まれるなかで、“機能不全”に陥った古い仕組みやモデルを刷新する挑戦がしやすい環境が整った。
それに伴い、イノベーションを構想するための思考法やマインドセット、ノウハウなども広がってきている。ビジネス界におけるイノベーションの対象分野は15年ごろを境に、アプリやECなどによるインターネットのユーザー体験を中心にした軽いイノベーションから、AI(人工知能)、IoT、デジタル変革など、企業のインフラそのものを再構築する重いイノベーションへと潮目が変わったように思う。
スタートアップの世界でも、インターネットによりユーザーと企業とを新しいかたちでマッチングさせるようなビジネスモデルから、AI、ロボティクス、生命科学、宇宙といったR&D(研究開発)投資を伴う「ディープテック」と呼ばれる分野が中心になり、技術をユーザー価値に翻訳したうえで、社会に実装するというハードルの高いものになってきている。新たなコンセプトを構想することから、新たなコンセプトを広げるために組織を変化させ、社会に実装していくイノベーション実践へ──イノベーションは“構想”から“実践”の時代に入ったのだ。
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