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交通費がどれだけ高いかを会社員は知らない

お行儀ですか。

鈴木氏:今回の件は別として、コストの負担をせずに情報や(人的)ネットワークを抜きまくっている大手企業はたくさんあります。

 僕もよく遭遇するのですが、大手企業から「ちょっとゼロワンさんの事業を説明してください」と言われて、先方を訪ねると10人ほど社員が待ち構えていて、質問攻めに合う。帰り際に「ありがとうございました」と言われ、その先、何もなく終わることが、よくあるんですよ。

 スタートアップはお金も人材も資産も足りないから、大手企業から「ちょっといいですか」と言われると行きたくなってしまうのです。全然お金がない中、往復時間とミーティングで計3時間も拘束されて、情報を抜かれるだけ。会社員をやっていると気づかないのですが、交通費ってすごく高いんですよ。労働時間って垂れ流されていくんですよ。3時間失うと、1日の3分の1がだめになってしまう。これに大企業の人たちは、ほとんど気付いてくれなくて。

 法的には悪でなくとも、経済的な負担もないまま情報を抜くのはお行儀が悪い。「ビジネスの世界なら当たり前」というレベルの情報のやりとりもあると思いますが、感情のしこりは残るので、スタートアップの間で「あの会社はちょっとね」となってしまう。言いっこなしは重々承知しつつも、スタートアップ側にマグマだまりができていて、たまたま穴が空いたから噴き出してきたという感じでしょうか。

大手企業にとって、情報交換はどんな利益があるのでしょうか。

鈴木氏:日本の多くの大手企業は、情報収集にものすごい価値を見いだしています。僕らはよく「資料をください」と言われる。では、具体的にオープンイノベーションについてどう考えているかを聞いてみると、ほとんど何も考えておらず、思考停止してしまっている。

 イノベーションの世界は、資料を見ても話を聞いても分からなくて、やってみないと理解できない。日本のオープンイノベーションの不全は、トライをすることが極端に少ないためです。情報収集に力が偏りすぎている。

 新しい価値を創造しようとするとき、完全な正解は存在しません。自社のサービスやプロダクトを支援してくれる仲間や理解者をどれだけ増やせるかが鍵になります。サービスが似てしまうのは仕方がないが、いかにもお行儀が悪い会社に対してもろ手を挙げて「一緒にやろう!」という気持ちにはなりませんよね。応援者のコミュニティーをつくるには、レピュテーションは極めて重要になるわけです。