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soucoのウェブサイト(左)と三菱商事の「WareX」のサイト

 インターネットのSNS(交流サイト)で、三菱商事が2019年秋に始めた物流倉庫ビジネスが、スタートアップのモデルを「パクった(盗用した)」のではないかと取り沙汰されている。オープンイノベーションに詳しい森・浜田松本法律事務所パートナーの増島雅和弁護士に、スタートアップと大手企業の付き合い方について聞いた。

(関連記事:倉庫ビジネスを巡る三菱商事の「パクリ疑惑」はなぜ生じたか

増島雅和(ますじま・まさかず)氏
森・浜田松本法律事務所パートナー弁護士(日本およびニューヨーク州)。2000年に東京大学法学部卒業、01年に弁護士登録。フィンテック企業や、スタートアップと大企業のオープンイノベーション、M&Aと新規事業開発に関するコンサルティングを専門とする。19年から内閣府規制改革推進会議専門委員(投資等ワーキング・グループ)を務めるほか、経済産業省と特許庁の「オープンイノベーション 支援人材育成・契約ガイドライン委員会」に名を連ねる

ツイッターなどで、物流スタートアップのsouco(東京・千代田、16年設立)と大手商社の三菱商事を巡る「パクリ疑惑」が話題になっています。

増島雅和森・浜田松本法律事務所パートナー弁護士(以下、増島氏):過去、似たような事案で煮え湯を飲んだ経験があるスタートアップ関係の人たちが食いついたんだと思います。

 三菱商事とsoucoの間で何があったのか、詳細は分かりません。ただ、今回は別にしても、「オープンイノベーションだ」という顔をして、スタートアップから情報を吸い取る悪名高い大企業は存在します。「こんな大手さんが(自社のビジネスに)関心を持ってくださいました!」とうれしそうに話す起業家に、「そこはやめておきなさい」と助言することはあります。

 公正取引委員会が「業務提携に関する検討会」報告書で、独占禁止法違反となる恐れがある例を示すなど、問題意識は共有されつつあります。経済産業省や特許庁が「大企業と研究開発型ベンチャーの契約に関するガイドライン」の策定も進めています。

日本経済の活性化のためにオープンイノベーションの推進が求められる中、大手企業にはベンチャーとの積極的な協業が期待されているのではないでしょうか。

増島氏:大手企業は、慈善事業をやっているわけではありません。むしろ今、大手の本気度が増しているといえます。従来はスタートアップ「支援」という言葉に象徴されるように、一言でいうと真剣味が足りなかった。しかし、大企業もスタートアップが次世代ビジネスの中心になっていく存在であることが、なんとなく分かってきました。大企業が真剣にオープンイノベーションに挑まなければならないフェーズ(段階)に来ています。

真剣になった大手と規模の小さなスタートアップでは力の差が大きいのではありませんか。

増島氏:優秀な起業家が増えてお金がつく(資金調達ができる)ようになり、スタートアップはレベルアップしています。ただ、大手企業の本気度が増してスタートアップと「がっぷり四つ」に組むとなると、知的財産の分野で最も差がつきます。そこで、NDA(秘密保持契約)問題が起きています。

今回のsoucoと三菱商事の件では、締結したNDAの秘密保持義務の期間が1年間でした。短かったという指摘もあります。 

増島氏:数字が独り歩きすると困るのですが、リアルテックのスタートアップは5年ほど、そうでないなら3年。ウェブサービスで変化が速い場合は、3年より短いといった感じでしょうか。

そもそもの質問で恐縮なのですが、大手企業はNDAを結ばないといけないのでしょうか。

増島氏:大手とスタートアップが協業する際にNDAを結ぶのは、プラクティス(慣行)になっています。

 例外はVC(ベンチャー・キャピタル)です。出資を希望するスタートアップから大量の要望が届くVCは、競合する複数の企業から情報を得る立場にあります。しかし、大量に案件をさばかないと投資ファンドとしてビジネスが回らず、スタートアップにも必要な資金が入りません。そのため、NDAを結ばずに交渉することが実務で容認されています。

 しかし、大手の事業会社や、その傘下にあるCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)にNDAを結ばないという選択肢はあり得ません。大手企業がNDAを結ばずにスタートアップと提携や出資の話し合いを進めるという流れはあってはならないと強く述べておきたいと思います。

 ただ、スタートアップがNDA違反を理由に損害賠償や差し止めを実際に請求できるかといえば難しい。スタートアップはビジネスを常に前に進めないと死んでしまう存在です。特にシードステージ(会社設立準備中あるいは設立間もない時期)だと、訴訟などしている暇もリソース(資源)もない。