インターネットのSNS(交流サイト)上で、大手商社がスタートアップのビジネスモデルを「パクった(盗用した)」のではないかとの疑惑が話題を呼んでいる。三菱商事が2019年秋に始めた物流倉庫のマッチングサービスのウェブサイトが、16年設立のsouco(東京・千代田)のサイトに「似ている」と同社創業者が投稿したことがきっかけだ。企業の枠を超えた協業で新ビジネスを起こす「オープンイノベーション」の重要性が高まる中、大手とスタートアップの適切な付き合い方とは何かが問われている。

soucoのウェブサイト(左)と三菱商事の「WareX」のサイト
soucoのウェブサイト(左)と三菱商事の「WareX」のサイト
[画像のクリックで拡大表示]

 「提携や出資の話をしながら、大企業がパクったなら問題」「スタートアップがほかにマネできない速さで対抗するしかない」。「パクリ疑惑」を巡り、ツイッターでは起業家や弁護士の様々な意見が飛び交っている。

 発端は2月8日、soucoの中原久根人社長が、自身のフェイスブックで三菱商事のウェブサイトを指し、「これは似てるなw」と投稿したことだ。起業家らがツイッターで反応し、物流業界を超えて広がった。火を付けたともいえるつぶやきに対するリツイートは既に1200を超え、「スタートアップ業界で大きな話題になっている」(関係者)という。

 soucoと三菱商事のサービスはともに、倉庫の空きスペースを活用したい企業と荷物を預けたい企業を結び付ける「物流倉庫のマッチング」だ。中原社長が不動産会社に勤めている時代に、「空き倉庫はないか」との問い合わせが相次ぎ、実は倉庫のデータベースがないことに気づいて事業の着想を得たという。欧米でも小規模、短期間で倉庫の空きスペースをシェアするビジネスが立ち上がっている。

 両社が距離を縮めたのは約3年前。17年以降、3度会談を開いている。soucoによると、17年5月に東京都内で開かれた「アジア・シームレス物流フォーラム」のパネルディスカッションに、中原社長が登壇。関心を持った三菱商事の物流事業の担当者が、soucoに情報交換の面会を呼びかけたという。

■三菱商事とsoucoのやりとりなど主な経緯
2017年5月soucoが物流フォーラムに登壇、三菱商事が興味を持つ
2017年初夏soucoと三菱商事が秘密保持義務の期間が1年間のNDAを締結
三菱商事の呼びかけで、soucoと三菱商事が面談
2018年1月soucoの呼びかけで、両社が2度目の面談
2018年11月三菱商事が米スタートアップと資本提携
2019年9月soucoの呼びかけで、両社が3度目の面談
2019年11月三菱商事が「WareX」の実証実験をスタート
2020年2月インターネットで「パクリ疑惑」が話題に

 当時、資本提携先を探していたsoucoは面会の呼びかけを歓迎した。ただ「三菱商事が相当に熱心だったことと、同社が別の海外のスタートアップと提携したという噂があった」(中原社長)ため、面談前にNDA(秘密保持契約)の締結を求め、秘密保持義務の期間1年間で両社は合意した。

 soucoは既に出資を受けていたベンチャーキャピタルに提出した資料と同様のものを三菱商事に渡した。当時は事業が本格化する前で、会社概要や将来の事業構想などが記載されていた。soucoは会談後、三菱商事に「出資や提携を前提にしたヒアリングだったのか」と問い合わせたところ、「視野に入れている」との返事を得たとしている。三菱商事は、会談やNDAについてはsoucoとほぼ同じ説明をしているが、「資本提携の話をした記録はない」(広報担当者)と一部で説明が食い違っている。

 その後、soucoが三菱商事に呼びかけて、18年1月と19年9月に両社は会談を行ったが、協業に関し進展はなかった。そして三菱商事は19年11月、「従量課金型の全く新しい倉庫スペース提供サービス」として、「WareX」の実証実験を開始。20年2月、気づいた中原社長がSNSに投稿して、今に至っている。

 中原社長は「ウェブサイトのつくりが似ているなと思ったが、SNSでパクられたとは言っていない。ただ、始めるなら『言ってよ』とは思う」と話す。ツイッターでこの問題が話題になっていることに関して、中原社長に事情を聞こうという問い合わせはなく、「尾ひれが付いて盛り上がった」印象だという。

 一方、三菱商事は「盗んでいないし、soucoと対立するつもりはない」と主張する。その根拠の1つとして、18年11月に米国で物流倉庫のマッチングサービスを展開するFLEXEと資本業務提携したことを挙げる。soucoと面会する前からFLEXEと接触しており、WareXはFLEXEのモデルを日本で横展開するための実証実験だという。「三菱商事自身が倉庫を運営する点で、単なるマッチングとリスクの取り方が異なる」(広報)としてビジネスモデルに違いがあるとの見解だ。

次ページ 秘密保持契約では全てを守り切れない