日経ビジネス電子版で「走りながら考える」を連載中の人気コラムニスト、フェルディナント・ヤマグチさんはかなりの外食好き。そのフェルさんと、書籍『外食を救うのは誰か』を2022年11月に著した鷲尾龍一記者の対談第2回をお届けします。外食に「脱・搾取構造」の動きが出てきていることを話した前回、フェルさんは「志の高いマネジメントは結構なことだが、それで外食産業で生き残れるの?」と根本的な疑問を投げかけました。さて、今回は話がどう転がっていくのでしょうか。(編集Y)

(前回はこちら)
編集Y:外食は「低コストでよく働くアルバイト」頼みを脱却して、付加価値、つまるところ利益率を上げていかねば未来はない。『外食を救うのは誰か』といえば、そういう未来を「こうするんだよ」と示す経営者ということになるのでしょう。しかし、そんなことが可能なのか。フェルさんの疑問ももっともです。
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):僕が大好きな「鮨Sとう」ね。
鷲尾:ああ、あのすごいお寿司屋さん。
F:僕、もう来年の枠、持っているんですけど。
編集Y:ワク?
F:「来年の枠を持っているってどういうこと?」と思いませんか。10月にお店に行った後、「フェルさん、来年4月何日と10月何日、4月2名、10月8時半4名、よろしくお願いします」とメッセージが来るんです。すごくないですか。
編集Y:は? 日付と人数を指定して、それに合わせて来店せよ、ということですか? すごい! で、フェルさんはどうするんですか。
「よろしくお願いします」と絶対服従
F:それはもちろん「ありがとうございます、よろしくお願いします」って絶対服従ですよ。その日に行かなかったら、「ああ、そう、来ないんだ」って、アウト・オブ・リストになるわけで。
編集Y:もう席を用意してもらえないかもしれない。
鷲尾:店が主導権を持っているんですね。店の枠に合わせて、一緒に行く人を探さなきゃいけない。
F:お店に行きたい人はいっぱいいるんです。そのサークルにみんな入りたいけど、新規加入がなかなかできず。中でぐるぐるお客が回っていて、それでもう店が成り立っている。ほら見てください。全然盛ってないですよ(笑)。
編集Y:どれどれ。
F:「お世話になっております。昨日はありがとうございました。ご予約の件で連絡しました。9月13、20、こちらの日程、ご都合いかがでしょうか」と。僕の返事は「ありがとうございます」
鷲尾:即答しているじゃないですか。
編集Y:Sとうさんは経営が成り立つ分、こういうお客さんを持っていらっしゃると。
F:しかも最初は4名、4名の枠だったのに、いつの間にか2名、4名になった。お店の定休日が増えた関係で、予約数が少なくなっている場合があるらしいんです。客が絶対服従ですよ。こんな店があるんですよ。従業員が寒空の下、客引きしている店もあればね。
鷲尾:定休日が増えた、というのはいろんな背景がありそうですね。一般論ですが、人手不足とか原材料の調達の難しさ。あと働き方改革もあるかもしれません。こうやって店舗側が「無理なくお店を開けるときだけ開こう」となれば、客にとっては店に行ける日の希少性が高まりますね。でもこれって、高級店だけじゃなくてもできるはずなんですよね。
編集Y:ええっ?
鷲尾:大阪のあるガード下の焼肉店、値段は全然高くないんですけど、そこも半年か1年先の席を確保するシステムでした。
編集Y:マジ。
F:そういうのなら、武蔵小山にもありますよ。写真撮影禁止で、リピーターと一緒に行かないとだめ。だから連れていってもらう。
編集Y:お客を店の側から絞るという、ある意味個人経営店の究極のスタイルですよね。ただ、ビジネスとして、産業として、より成長、拡大を目指す場合に、それは回答としてありえるのか。
F:そう。確かに。Sとうで多店舗展開なんてできるわけがない。あくまでも、Sとうでの話ですからね。
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