
みなさまごきげんよう。
2022年、ついにフェルディナント・ヤマグチさんの担当編集から足を洗った編集Yでございます。
連載「走りながら考える」でご存じの通り、フェルさんは結構な外食好き。そして、読書好きでもあります。たまに本の情報を共有するので、弊社から出た『外食を救うのは誰か』(鷲尾龍一著)も、興味を持っていただけるかな、とお送りしてみたら「面白かった!」と、外交辞令じゃない食いつき。ひどい言い方ですが「え、ほんとに? どこがそんなに面白かったんですか」と、著者である後輩の鷲尾君も交えて聞いてみることにしました。
編集Y:フェルさんも鷲尾君も、年末で忙しいところありがとうございます。フェルさんにはときどき本をご紹介するんですが、まあ、反応が返ってこない。ところが、『外食を救うのは誰か』は「頂いた外食の本。とても勉強になりました。すごい調査力ですね。」(原文ママ)と、すぐにレスポンスが来たので、おっ、どこが響いたのかな? と気になって、一席設けた次第です。
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):アブダビへ向かう飛行機の中で一気に読ませてもらいました。繰り返しになっちゃいますが、まず、記者さんなら当然なんでしょうけど調査力がすごい。でも一番驚いたのは、自分が知っている「外食の常識」と、全然違うやり方が生まれていることが分かったからですね。
鷲尾:フェルさんが外食にお詳しいのはどうしてなんですか。
編集Y:デートに使うからですよね(笑)。
F:それもあるけど、やっぱり基本的に飲み食いすることが好きだからです。自分は素人だと自覚はしてます、という上で自慢しますけど(笑)、素人にしては、僕、飲食にとても詳しいと思うんですね。それなりにお金を使って実際にあちこちで食べているし、恥ずかしい話、ミシュラン巡りもしましたし。なにより飲食店を経営している友達が多い。はばかりながら、普通の人よりも相当飲食のことに詳しいなって思っているんですね。
鷲尾:なるほど。
F:それが、自分が詳しいはずの飲食に関して、まったく新しい動き、ニューウエーブが来ているんだ、と、この本を読んでびっくりした。僕がイメージしていた飲食店の文化って、とにかく上下関係が厳しくて、下は給料が安くて仕事はキツいけど我慢して働いて、それは「俺も頑張ればいずれウチの社長みたいにベンツに乗れるんだ」というモチベーションが支えている、という。
編集Y:うひゃー。明日の成長のために、今日の不合理を我慢する、みたいな。
F:あしたのジョーの世界。みんな歯を食いしばってね。あとは何ていうんだっけ、何とか率。FLか。
鷲尾:FL率。はい。
F:食材の原価とレイバー、人件費か。
鷲尾:そうですそうです。「FLコスト」と言う方が多いですね。
F:FLコストを抑えて、安く仕入れて安く使って、これで利益を上げましょう。うまくいったらどんどん多店舗展開していきましょうというのが、飲食の勝利の方程式。というふうに僕は思っていたわけです。実際、そういうふうに発展していった産業なわけだし。そして、本にも書かれている通り参入障壁も非常に低いから、退職金を握りしめて、定年になったらすぐにラーメン屋を開店することもできてしまう。だから、いっぱい入っていっぱいやめて、勝ち残った人だけが果実を得られる、という。
外食はそういう世界だ、と思っていたんです。でも本に出てくる、特に後半から出てくる人たちというのは、全然違うじゃないですか。
鷲尾:おっしゃる通りです。この本に書いた「月山(がっさん)」という焼鳥屋さんを出している和音人(わいんびと、東京・世田谷)の狩野高光さんは、店舗は10店ほどにとどめて、三軒茶屋に集中出店すると言っています。店舗をどんどん増やして知名度を上げるという意識はなくて、地域に根付いて、街を発展させようとしています。
F:「本当? この人たちってマジでこんなこと考えてるの? 何かエエカッコし過ぎちゃいますの?」というくらい、従来のやり方から比べると違和感がある。でも、どうやらそれが本当にうまくいっていて、また、共感する人がそこに来て働いている。とてもびっくりして、それで利益が本当に上がって成長していけるなら、そんなめでたいことはないんだけど。
編集Y:ちょっと確認なんですけど、フェルさんがお付き合いしている、外食の経営者の皆さんというのは。
F:現時点の外食での、“最勝ち組”と言っても過言ではないくらい、成功してきた方々だと思います。
編集Y:なるほど、その最勝ち組の皆さんも、その勝利の方程式、レイバーコスト、フードコストを抑えて、従業員教育は「歯を食いしばって働いて、盗めるものは盗んで、自分ででかくなれ」というスタイルだったんでしょうか。この21世紀に。
F:知り合った初期のころはやっぱりそうでしたよ。コロナ禍直前は、まさに変わりつつある時期でした。ちゃんと従業員さんをコストじゃなくて成長させるべき対象だと認識を変えつつあった。でも、この本の後半に出てくる人たちほどじゃなかったです。
編集Y:私も何人か、独立系の外食企業の経営者の方にお会いして、従業員を大切に思っている、というお話を伺いましたけれど、あえて言葉を選ばずに言えば、ヤンキー系のマンガで「暴走族のヘッドが自分のチームのメンバーを家族のように大事にしている」という、あのイメージに近かった。熱いと言えば熱い。不合理と言えば不合理。
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