2022年7月末、ある新興ハンバーガー店が2年足らずの短い歴史を終えた。テークアウト専門かつ完全キャッシュレスという独自の店舗形態が注目を集め、順調に滑り出したはずだった。ところが、店舗を増やそうという過程で革新性が失われてしまった。その過程で何が起こっていたのか。挑戦と挫折の裏側を追った。


 日経ビジネスはコロナ禍で苦しみ、今も苦境にあえぐ外食産業が向き合うべき構造課題を解きほぐした書籍「外食を救うのは誰か」を発行しました。書籍から内容を厳選してお届けする本連載。今回は、新興ハンバーガー店の挑戦と挫折を追ったルポルタージュです。

(前回はこちら

 2022年6月中旬、東京・渋谷駅から徒歩3分ほどの繁華街にあるハンバーガー店「ブルースターバーガー渋谷宇田川店」を訪れた。「6月末で閉店するらしい」。そんな情報を関係者から入手したためだ。

 新型コロナウイルス禍のさなかの20年11月に1号店(中目黒店、東京・目黒)が開業したブルースター。スマートフォンアプリによる注文システムとキャッシュレス決済を活用した「ほぼ非接触」のテークアウト専門店として注目され、筆者も記事を書くために買いに行ってみた。

 それから1年半、多店舗展開を目指しているはずのブルースターが旗艦店である渋谷の店舗を閉めるという。まずは現地を見てみようと思い立った。

 最初に違和感を覚えたのは、店の前に置かれた看板の文字を目にしたときだった。「ゆったりソファー席! 奥に広々50席」と書いてある。一般的な飲食店であれば普通のうたい文句だが、ブルースターはテークアウト専門ではなかったか。やや戸惑いながらも、かつて1号店の開業時に使ったスマホアプリで注文しようとした。

2022年6月に閉店した「ブルースターバーガー渋谷宇田川店」が店頭に掲げていた看板(東京・渋谷、同月撮影)
2022年6月に閉店した「ブルースターバーガー渋谷宇田川店」が店頭に掲げていた看板(東京・渋谷、同月撮影)

 すると、なぜかアプリの再ダウンロードを求められてしまう。注文用のセルフレジが店内に置かれているのが目に入ったので、そちらで注文することにした。画面をタッチしてメニューを選ぶと、支払いに「現金」の選択肢が出てくる。どうやら「完全キャッシュレス」もやめたようだ。

 待つこと数分、出来上がったハンバーガーは1号店で食べたときのものとは大きく変わっていた。以前は一般的なハンバーガー店と同程度の片手で持ちやすいサイズだったが、一回り大きく、真上から串を刺さなければ倒れそうなものになった。

 渋谷宇田川店の「チーズバーガー113」は600円(税込み)。確か、1号店に行ったときは「ブルースターチーズバーガー」が300円程度だったはずだ。後から調べたところ、1号店などはその時点までにブルースターチーズバーガーを400円程度に値上げしており、渋谷宇田川店でさらに高価格の商品を出し始めたようだ。

 ある業界誌は、ブルースターの新しいメニューを「これぞグルメバーガー。ぜいたくな味わいだ」と評価していた。筆者もおいしいとは感じたが、その日は昼時にもかかわらず店内は閑散としていた。近くの「マクドナルド」のレジ前に行列ができているのとは対照的だった。

次ページ 「国内2000店」の夢