地方の農家と都心の店舗をつなぐ「産地直送」で急成長を遂げた居酒屋チェーン「塚田農場」。ブームが去って業績が低迷したところにコロナ禍が直撃した。塚田農場を運営するエー・ピーホールディングスは、がむしゃらに拡大したベンチャー気質から、大人の経営に脱皮するため、デジタルツールを使った新たな店舗運営に挑戦する。「旬」を過ぎた塚田農場は復活できるのか。その奮闘を追う。


 日経ビジネスはコロナ禍で苦しみ、今も苦境にあえぐ外食産業が向き合うべき構造課題を解きほぐした書籍『外食を救うのは誰か』を発行します(発行日は2022年11月28日)。書籍から内容を厳選してお届けする本連載。今回は塚田農場の復活に向けた奮闘を紹介します。

 書籍発行に連動し、日経ビジネスLIVEでは12月15日(木)19:00~20:00にウェビナー「『安売りが外食苦境の根源だ』ファミレスをつくった男が激白」を開催します。1970年にファミリーレストラン「すかいらーく」1号店を開業した横川竟氏と、外食経営雑誌『フードビズ』主幹の神山泉氏が、外食産業の課題と展望について語ります。参加を希望される方は「12/15開催 すかいらーく創業者の横川氏が語る『外食苦境の根源』」から詳細をご確認ください。

 「これなら武器になる」――

 東京都港区の新橋駅から徒歩5分ほどにある「塚田農場新橋レンガ通り店」の藤田莉奈店長はこんな印象を持ったという。来店客が自らのスマートフォンで注文できるモバイルオーダーシステムを塚田農場が2021年秋に導入したときのことだ。

エー・ピーホールディングスが運営する「塚田農場」は、来店客のスマートフォンから注文・決済ができるモバイルオーダーシステムを導入した(写真:陶山 勉)
エー・ピーホールディングスが運営する「塚田農場」は、来店客のスマートフォンから注文・決済ができるモバイルオーダーシステムを導入した(写真:陶山 勉)

 来店客がQRコードをスマホで読み込むと、スタッフの顔写真とともにあいさつが表示される。メニュー画面に遷移すると、最も目立つ上部に料理を紹介する動画が再生される。したたる肉汁や沸き立つ湯気は食べたいという意欲をそそる。紙に印刷したメニューではなかなか表現しきれない「シズル感(五感に訴える臨場感)」で料理の魅力をアピールしていた。

 画面をスクロールすると、「地鶏の炭火焼き」などの定番メニューや、季節のメニュー、すぐ出るおつまみ、そして「がっつり」と「さっぱり」など好みに応じたメニューが続く。画面上の料理をタップすると詳細な説明が表示され、料理に合う焼酎など「ペアリング」が紹介される。

 塚田農場を運営するエー・ピーホールディングス(HD)は、アナログ時代の接客を再現する思想でモバイルオーダーシステムを設計した。もともと塚田農場では、まず入り口で客を出迎え、席についてからはメニューや、農家と直接つながる塚田農場の特徴を説明、そして定番メニューを薦める。さらに頃合いを見て塚田農場独自のポイントプログラム「名刺システム」を紹介する、といった流れで接客してきた。

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