シダックスは10月7日、オイシックス・ラ・大地によるTOB(株式公開買い付け)に対する意見表明を「反対」から「中立」に変更した。シダックスのフード関連(給食)事業の協業相手を検討する「特別委員会」を設置することで、オイシックス、シダックス創業家と合意できたためだ。創業家の意向を反映したTOBに対し、シダックス取締役会が反対するという異例の「敵対的TOB」は一応の決着を見た。今回の騒動を通じて、誰が得をしたのだろうか。

 2019年、不振のカラオケ事業から撤退するなど経営危機に陥っていたシダックスは投資ファンドのユニゾン・キャピタル(東京・千代田)から出資を受けた。創業家はあらかじめ、ユニゾンから株式(27%分)を買い取る「株主間契約」を締結。買い取り額は、22年6月末までなら80億円、7月以降なら100億円が少なくとも必要な契約だった。

 22年、創業家は契約を実行し、ユニゾンとの資本関係を解消することを決意。買い取り資金が不足した創業家は、オイシックスに「指定譲受人」となるように求めた。オイシックスはシダックスの給食事業と、自社の食品宅配事業にシナジーがあるとして応じた。

 しかし、創業家を除くシダックス取締役会は反対を表明。ユニゾンも呼応して、TOBに応じないとし、事態は9月から1カ月以上膠着していた。シダックスが意見を反対から中立に変えたことで、ユニゾンもTOBに応募すると発表した。

 「着地点が見えないときもあったが、最後は握り合えた」

 シダックスの柴山慎一取締役は日経ビジネスの取材に対し、こう語った。シダックスは、オイシックスとの間で基本合意を結んだ。その柱は、給食事業の協業相手を検討する「特別委員会」の設置だ。特別委員会は独立したフィナンシャルアドバイザーを起用し、委員の人選や運営、検討プロセスに創業家やオイシックスは関与しない。特別委は、協業相手を選び、給食事業子会社の株式を売るかどうかなどを検討する。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

 シダックスがTOBに反対した主な理由は、「少数株主の利益保護」(柴山氏)だった。TOBが成立すると、オイシックスと創業家は計約6割の議決権を握ることになる。両者がタッグを組めば、仮に別の企業が給食事業の買収を持ちかけても、オイシックスが優先される恐れがあるという主張だった。

類似事例は「関西スーパー」?

 ある企業に対して買収者が登場した際、まだ表に出ていない潜在的な買収候補者から対抗案が出てくる機会を確保することを「マーケットチェック」という。先行案の買収価格より対抗案の方が高ければ、株主の利益は増す。先行案も対抗案にさらに対抗して、買収価格を値上げするかもしれない。そのため、機会の確保が重要という理屈だ。

 買収者の乗り換えが実現した例は、2020年の「ニトリ×島忠」だ。ホームセンター中堅の島忠は同業大手のDCMホールディングスと買収合意していたが、これを破棄してニトリホールディングスを選んだ。DCMのTOB実施中に、ニトリがより高い価格で買収する意思を表明。このときは、DCMが1株4200円、ニトリが5500円と比べやすかった。

 比べにくいケースが、21年の「エイチ・ツー・オー×関西スーパー」だ。阪急阪神百貨店などを傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリングと関西スーパーマーケット(現関西フードマーケット)は経営統合で合意していたが、首都圏地盤のスーパー・オーケー(横浜市)が関西スーパー買収の対抗案を明らかにした。オーケーは上場来高値となる1株2250円の買収を提示したが、エイチ・ツー・オーの買収は「株式交換」によるもので比べづらかった。「判断材料が足りない」と指摘する声が出たが、最終的にエイチ・ツー・オーが僅差で勝利した。

 シダックスのケースは、関西スーパーに近いと言える。オイシックスによるTOB価格は、足元の株価より低かった。ただ、創業家が3年前にユニゾンと結んだ「離婚契約書」に基づいたもので、「ユニゾンも価格には納得していた」(関係者)。また、外食大手のコロワイドが給食事業の買収に関心があると明らかにしたが、具体的な価格などを一般株主に知らせる機会がないまま、撤退してしまった。

 創業家を除くシダックス取締役会は、特別委ならオイシックス以外の協業・買収提案を「公正」に評価できるとしている。そもそもオイシックスは、TOBは「給食事業子会社の買収」を前提にしていないとしており(可能性を排除していない)、両社の微妙なすれ違いは残ったままで妥結した。

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