外食産業について回るのが人手不足の問題だ。「食」をめぐる店舗同士や他業界との激しい競争の中、薄い利幅で営業せざるを得ず、従業員の賃金も上げられない。繁閑の波に合わせた人員の調整も難しく、従業員が長時間にわたって激務をこなす「ブラック職場」になりがちだ。では、人手不足はどうしようもないのか。そんなことはない。来店客と従業員の満足度をともに高め、人が集まる外食店にする道は必ずある。従業員に「やりがい」を感じさせることで変貌した外食店の姿から、その解決の糸口が見えてくる。
■連載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)切れた「モルヒネ」 外食に真の危機が訪れる
(2)外食が変われなかった10年 2つの「追い風」で危機感緩む
(3)ロイヤルHD菊地会長「多店舗化の呪縛から抜け出せ」
(4)淡路島に出現した「外食の町」 バルニバービの“非常識”立地戦略
(5)食品販売が売上高の6割に 「大阪王将」を導いた“逆算”
(6)「連邦経営」掲げるクリエイト 個人店とチェーンの間に活路
(7)「スマホでチップ」が下げた離職率 働きがいこそ外食の強み(今回)
(8)すかいらーく創業の横川竟氏「外食の安売りは僕の反省でもある」
……ほか
外食店の覆面調査サービス「ファンくる」で2022年4月、東京・千代田の「広島お好み焼き Big-Pig 神田カープ本店」の顧客満足度が約2000店舗中1位となった。来店客から高く評価される接客力の秘訣は「チップ」にある。
この店は21年2月、スタートアップのごちっぷ(東京・港)が手掛けるデジタルチップサービス「ごちっぷ」を導入した。スマホでQRコードを読み取り、店員を指定して100~3000円のチップを支払う仕組みだ。チップの理由として「感謝」か「応援」を選び、店員にメッセージを送れる。この店では受け取ったチップを本人に7割、キッチンスタッフに3割分配し、店側は受け取らない。

とはいえ、チップの総額は店全体でも月額5000~6000円。スタッフにとって大きな収入源にはならないし、店舗を運営するスマイルリンクル(東京・千代田)もそこは期待していない。狙うのは「スタッフのやる気向上」だと同社の市川知治COO(最高執行責任者)は言う。
この店で最もチップを稼ぐ三浦未花さんは「日々、全力で接客しているが、気分の浮き沈みはある。そんなとき、チップに添えられたメッセージを読み返すと、元気が出る」と話す。
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コロナ禍で大きな打撃を受けた外食産業。採算性の低さや人手不足は表層的な問題にすぎない。真の問題はコロナ禍前から変わっていなかった。
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