外食業界の未来を探る本連載。外食業界は2010年代の「追い風」を受けて課題から目を背け、新型コロナウイルス禍も時短営業の協力金で延命してきた。ロイヤルホールディングス菊地会長が指摘するように、外食業界は今こそ従来の常識から脱却しなければならない。
今回からは「強い外食」を生み出そうとする企業や人の挑戦を追っていく。
まず取り上げるのは、外食店運営のバルニバービ。人の流れが一変し、外食産業をはじめとする様々な業種が出店戦略の練り直しを迫られたコロナ禍。そんな中でもバルニバービは泰然自若を貫く。兵庫県・淡路島の海岸沿いに、カフェやラーメン店、パン屋など外食店を次々と出店し、東京ドームの面積に近い約4ヘクタールの広さを持つ「外食の町」を作り上げた。普通なら避ける「バッドロケーション」をあえて狙う戦略とは。
■連載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)切れた「モルヒネ」 外食に真の危機が訪れる
(2)外食が変われなかった10年 2つの「追い風」で危機感緩む
(3)ロイヤルHD菊地会長「多店舗化の呪縛から抜け出せ」
(4)淡路島に出現した「外食の町」 バルニバービの“非常識”立地戦略(今回)
(5)「連邦経営」掲げるクリエイト、個人店とチェーンの間に活路
(6)食品販売が売上高の6割に イートアンドHD導いた「逆算」
(7)人手不足は怖くない 働きがいこそ外食店の力
(8)すかいらーく創業の横川竟氏「外食の安売りは僕の反省でもある」
……ほか

「ここに店建てて誰が来んの?」
外食店を手掛けるバルニバービが兵庫県・淡路島の西海岸で運営する1軒のレストラン。店長の井上隆文氏は、2019年4月の開業に向けて建設工事中だった現地を初めて訪れたとき、こんな不安を抱いた。
美しい海の景色に感動こそしたものの、周囲を見渡しても、広い野原に古くからの民家が点在する程度。近くの道はめったに人が通らない。
その不安は見事に覆される。開業直後のゴールデンウイークには関西や四国、中国地方から日帰り客が押し寄せた。翌年の夏に開業したホテルもすぐさま盛況になった。
21年には遊歩道を整備し、コテージやラーメン店、カフェ、回転ずし店、酒場を相次いで開業。地元の神姫バスが神戸市中心部にある三ノ宮駅近くからの直通バスの運行を始めた。野原が広がっていた約4ヘクタールの土地は見違えるように変わった。
21年夏には、バルニバービの中で淡路島の店舗が売り上げトップクラスになった。22年6月までの1年間の施設来訪者は25万人強。前年比約2倍に伸びた。

開業の2年前からこの姿を信じていたのが、バルニバービの創業者で会長の佐藤裕久氏だ。
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