東京では4度目となる緊急事態宣言の終わりが見えず、外食業界は苦境が続く。そんな中、中古の厨房機器などを取り扱うテンポスバスターズは現在の60店舗を今後6年間で120店舗とする計画を掲げた。顧客となる中小・個人経営の飲食店がコロナ禍にあえぐ中、なぜ出店攻勢をかけるのか。そして、中古厨房機器の販売が好調な中、飲食店支援事業に注力し始めた理由は。テンポスホールディングスの森下篤史社長に聞いた。

1947年静岡県生まれ。71年静岡大学卒業、東京電気(現・東芝テック)入社。83年、東京都大田区で食器洗浄機メーカー・共同精工(現:キョウドウ)を設立し社長に就任。その他、英会話学校や回転ずし店の経営などを経て、1997年に中古厨房機器販売の「テンポスバスターズ」を設立。2002年12月、ジャスダック市場に株式上場。17年にホールディングス化し、現在はステーキチェーン「あさくま」などグループ18社を抱える。
コロナ禍の終わりが見えません。テンポスホールディングスも外食企業を抱えていますが、現状はどうでしょうか。
森下篤史氏(以下、森下氏):確かに、状況は芳しくない。まず、ステーキチェーンの「あさくま」については、20年4月に94あった店舗を21年7月までに67店舗に減らしました。およそ3割の削減です。そして、グループ企業の和食店「竹若」(東京・中央)は破産する手続きを進めることに決めました。20年2月に買収したばかりでしたが、規模の大きな居酒屋は手の打ちようがない。約10億円の特別損失を計上することになってしまいました。
ステーキ、M&Aで事業を拡大したい
焼肉店の好調が伝えられることが多いですが、ステーキ業態は厳しいのですね。
森下氏:ショッピングモールに出していた店舗など「何とかなる」と思っていたところも閉店に追い込まれてしまいました。
とはいえ、焼き肉も唐揚げも、もはや過当競争になりつつあるとみています。今更そこに入っていくよりも、我々はステーキを磨き上げた方がいいと考えました。例えば、250gのステーキ、サラダ、コーンスープに、ライスかパンを合わせて1080円(税抜き)にした新しいセットメニューがあります。来店客の4割がこのメニューを選んでいます。また、原価率が48.8%と高い「もりもりハンバーグ」なども一部店舗で実験的に販売し、好評です。外食の需要は必ず戻ってくると信じていますから、あさくまも今期は6~8店舗ほど出店するつもりですよ。
順調に回復してきたら、同じ業態のM&A(合併・買収)にも乗り出そうと考えています。現在、あさくまの売上高は63億円(2021年3月期)ですが、この程度の売上高では規模を生かしたバイイングパワーが弱いのです。業者にばかり無理を押しつけて、コストを下げるわけにもいかないでしょう。やはり、200億~300億円程度の事業規模に拡大して、生産センターも設置した上で、仕入れ業者と一緒になってコストを下げる体制にしなければいけません。将来的にはステーキだけで300億~400億円程度を目指したいと考えています。
感染が拡大する中でも外食のニーズは本当に戻ってくるのでしょうか。
森下氏:新型コロナウイルスの感染を最も恐れているのは、やはり高齢者でしょう。ただ、65歳以上のワクチン接種率は各地で8割を超えてきている。そして高齢者が人口の3割近くを占めているわけだから、こうした人々が安心するようになれば、外食へのニーズもおのずと戻ってくるとみています。若年層は高齢者と比べれば、「感染症を気にして慎重に行動する」という人は少ないでしょう。
ただ、お酒についてはコロナ前後で飲み方が変わるのではないでしょうか。この1年以上にわたる時短営業が習慣化してしまったことで、従来は「午後7時から飲もうか」という言葉は「午後4時、5時から飲もうか」という言葉に変容しました。仮に今後、酒類の提供が再開されることになっても、外食におけるお酒の需要はコロナ前の水準までは回復しないと思います。
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