「国内2000店舗」の野望
スマホで注文した商品を受け取るだけの店舗では、店がにぎわっているようには見えない。おいしそうに食べている姿もなかなか見られない。店舗に客があふれ、行列もできているような様子を見せることが、出店希望者の増加につながると考えたわけだ。
ブルースターバーガーの運営会社は参入当初から「国内2000店舗」という目標を掲げていた。多店舗展開のためには、フランチャイズ契約したいと考える人たちを増やさなければならない。「低価格かつ高品質のハンバーガー」という市場に他社が参入してくる前に一気に広げたいと考えたのは当然かもしれない。

ブルースターが導入したスマホ注文は、待ち時間を減らせるという利便性を提供するためのものだった。店がにぎわい、外に行列ができることは、本来であれば「設計ミス」のはず。しかし、「分かりやすい繁盛ぶりで消費者やフランチャイズ出店の希望者を引きつける」という外食の成功体験が勝った。
22年1月に開業した渋谷の店舗には、約50の客席と、現金が使えるセルフレジを置いた。持ち帰りやすいように片手サイズにしていたハンバーガーは、パティの上からナイフを刺さないと倒れてしまうほど大きなものに改良し、業界誌からは「これぞグルメバーガー。ぜいたくな味わいだ」と評価された。その分、値段も上げた。
これが、自らの強みを失う「改悪」となった。消費者からすれば、利便性も、「手ごろな価格でおいしい」という特徴もなくなってしまったのだ。客足が次第に遠のいていく。
さらに、会員データを失うという痛恨も重なった。新たに追加した現金対応のセルフレジと注文情報を統合するために、スマホ注文アプリを作り直す必要に迫られたのだ。3万人まで増えた会員データとその注文履歴を一気に失ってしまった。アプリを再インストールして会員情報を登録してもらうところから始めることになり、過去の来店客に再来店を促すといった戦術も取れなかった。
崖から落ちるように業績は悪化した。5月に神戸市と東京都立川市のフランチャイズ店が閉業し、6月には渋谷の新店も閉めた。7月、最後に残った目黒の1号店に記者が訪れると、開業当初に話題となった「受け渡し用ロッカー」が撤去され、新たに置かれた座席がむなしく空気を抱いていた。そして7月31日、1号店が閉業した。
低い参入障壁による過剰な出店や人手不足の問題が長らく指摘され、経営状態が不安定なままの外食業界。なぜ問題を放置してきてしまったのか。次回はその原因を解き明かしていこう。
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