倒産件数は最少水準だが……

 「開業してから2年後には半数が閉店する」ともいわれる外食業界。この焼肉店のオーナーもそうした壁にはね返された一人と言える。

 ただ、コロナ禍では協力金や雇用調整助成金などの支援が「モルヒネ」となって外食店の危機を覆い隠していた。その支援はもうない。「ウィズコロナ」で客足が戻りつつある一方で、真の危機が迫る。

 東京商工リサーチによると22年1~6月の飲食業の倒産は前年同期比約3割減の237件。過去20年で最少だった。ところが、ここにきて店舗売却の希望が急増している。M&A(合併・買収)仲介サイトのバトンズ(東京・千代田)によれば、飲食店の売却希望件数はここ数年、月20~40件程度で推移してきたが、22年に入って月100件を上回る水準になった。

M&A仲介サイトのバトンズに登録された飲食店の売却希望件数
M&A仲介サイトのバトンズに登録された飲食店の売却希望件数
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 「国が外食だけを支援したことで、協力金慣れして“ふぬけ”になった外食店も正直なところあるだろう。そうした店舗はこれから厳しくなる」。日本飲食業経営審議会の高橋英樹代表理事はこう指摘する。

「ブルースターバーガー」の誤算

 7月、東京・目黒。「コロナに適応した新業態」ともてはやされたハンバーガー店「ブルースターバーガー」の1号店は閑古鳥が鳴いていた。

 参入したのは20年11月。客が事前にスマホアプリで注文して、受け取って持ち帰るスタイルに特化した。店内には客席がなく、注文を聞いたり商品を机に運んだりするホールスタッフもいない。店内飲食の機能を削って、浮いた人件費と家賃を食材費に充てる戦略だった。

 一般的な外食店では「3割程度」とされる原価率。それを50%まで引き上げ、「大手チェーン店並みの価格で、よりおいしい」という市場を狙った。1人焼肉店「焼肉ライク」を生み出したダイニングイノベーション(東京・渋谷)の子会社が運営する点でも注目された。

 狙いが当たり、開業直後は注文が殺到。受け渡しが注文の2~3時間後になることもあった。その人気ぶりから多店舗化を加速しようとした頃から歯車が狂い出した。「出店希望者を増やすため、店のにぎわいを見せた方がいい」という声が上がり始めたのだ。

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