新型コロナウイルス禍による外出制限などで苦戦を強いられた「総合居酒屋」。環境変化に合わせて業態をつくり替える「朝令暮改」経営は、祖業「和民」さえも特別視せず、その看板を下ろした。聖域なき変革を是とする。その経営スタイルは、外食産業が生き残るためのモデルケースにもなり得る。

ワタミの看板ブランドだった「和民」。2021年3月に業態転換によって姿を消した
ワタミの看板ブランドだった「和民」。2021年3月に業態転換によって姿を消した

 2021年3月、30年近くワタミの看板ブランドであり続けた祖業「和民」がひっそりと姿を消した。コロナ前からミライザカや鳥メロといった業態への転換が進み店舗数は減少傾向にあったものの、和民ブランドは19年9月時点でも45店舗を全国に展開していた。しかし、焼肉の和民への業態転換などで和民の看板が下ろされたのだ。

 コロナ禍では和民のように豊富なメニューをそろえる「総合居酒屋」のような業態は苦戦を強いられた。消費者が来店前にあらかじめ、食べたい物(目的)を決めてから来店する「目的来店」への意識が高まり、料理に専門性を求めるようになったからだ。

「百貨店らしい居酒屋」がコンセプトの「こだわりのれん街」
「百貨店らしい居酒屋」がコンセプトの「こだわりのれん街」

 そんな中で21年12月、ワタミは大井町駅(東京・品川)前に新業態の「こだわりのれん街」を開業した。「百貨店的な居酒屋を目指す。専門店に勝てないメニューは居酒屋で出さない」。これは21年春に渡邉美樹会長兼社長が日経ビジネスの取材に応じた際に発言したことだ。それから半年あまりでこだわりのれん街は開業している。

 同店は「1つの店舗で7つの専門店の味を楽しめる」をコンセプトにした居酒屋だ。メニューには「大鳥居」(焼き鳥)、「加賀屋だしまる」(おでん)、「かみむら精肉店」(肉料理)など料理のジャンルごとに店名がつけられている。「和民」もブランドの1つとして、こだわりのれん街で“復活”していた。

 それぞれの“店”では前菜やつまみから主菜まで一通りの料理がそろえられている。それぞれのブランドでメニューを完結させることで、専門店らしさを表現した。「百貨店らしい居酒屋」という渡邉氏の描いたコンセプトを具現化したのが外食商品企画部の大西浩史部長だ。業態開発に当たって4カ月間で10回以上、渡邉氏を前に試食会を実施したという。

 中でも苦労を重ねたのは祖業「和民」のブランドで提供する「唐変木のお好み焼き」だ。

 大西氏にとっては「30年前の知らない味」。再現することそのものが難しいが、レシピも社内には残っていなかった。訳が分からないまま出した最初の試作品は食べる前に「0点」と渡邉氏からダメ出しを受けた。

 卵の個数を間違っていたのが原因だった。当時使っていたソースが廃番になっていたなど、その後も苦労は絶えず大西氏は当時から在籍している社員へのヒアリングや、生地を製造していたメーカーへの問い合わせなどに奔走した。

 問題となったソースはヒアリングなどを基に既存のソースをブレンドしたことで再現、「お好み焼きだけで5~6回は試食会に挑戦した」と大西氏は振り返る。

 業態はまだ実験段階で現在までに都内に2店舗を出店しているだけだが、業態転換の効果は既に出ている。大井町店は従来ミライザカだった時期と比べて、2割ほど売り上げが増加した。

 「居酒屋が生き残れるとしたら、ということを考え抜いた業態」と渡邉氏が自信を見せるこだわりのれん街の成否はワタミの居酒屋業態の命運を握っているといっても過言ではない。

渡邉美樹会長兼社長が「居酒屋が生き残れるとしたら、ということを考え抜いた業態」と語るこだわりのれん街
渡邉美樹会長兼社長が「居酒屋が生き残れるとしたら、ということを考え抜いた業態」と語るこだわりのれん街

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