「モバイルオーダー」や「マックデリバリー」などのDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させ、新型コロナウイルス禍で不況にあえぐ外食産業で数少ない勝ち組となった日本マクドナルドホールディングス(HD)。デジタル技術の導入に合わせ、店舗運営の効率化を図る“両輪の改革”を推し進めた。その主導者が4月に急逝した日本マクドナルドHD前代表取締役副社長兼COO(最高執行責任者)の下平篤雄氏だ。下平氏が思い描いていた未来型店舗体験とはどのような姿をしていたのだろうか。「目指したのはデジタルとホスピタリティーを掛け合わせたサービス革命だった」と下平氏は語っていた。

下平篤雄(しもだいら・あつお)
下平篤雄(しもだいら・あつお)
1953年東京都出身。76年国学院大学法学部卒業、78年日本マクドナルド(現日本マクドナルドHD)入社。2005年日本マクドナルドHD取締役、09年クォリティフーズ(国内最大のマクドナルドFC加盟企業)出向、15年日本マクドナルドHD代表取締役副社長兼COO。22年4月18日に逝去し、代表取締役副社長兼COOを退任(写真:小林淳)

2019年ごろから推進してきた店舗改革「未来型店舗体験」により、マクドナルドの店舗運営形態はコロナ下に大きく変容しました。そもそも、こうした店舗改革の構想はいつから始まったのでしょうか。

下平篤雄氏(以下、下平氏):未来型店舗体験、英語ではExperience of The Future(EOTF)と言いますが、構想の原型は16年に米国で開かれたマクドナルドの国際的な展示会で私が見学したものです。

 注文はPOS(販売時点情報管理)レジを介した仕組みではなく、キオスク端末やモバイルオーダーを使って商品をカウンターで受け取る。またはテーブルまで商品をお届けするといったサービスの形を見て、当時は本当に「未来的だ」と感銘を受けたものです。

DXで顧客体験を根本からつくり直した

モバイルオーダーのスマートフォン画面。同システムの導入によって顧客の注文方法は一気に多様化した
モバイルオーダーのスマートフォン画面。同システムの導入によって顧客の注文方法は一気に多様化した

今やすっかり市民権を得たモバイルオーダーも当時から存在していたのですね。

下平氏:米国の展示会ではメインの注文方法はキオスク端末が担うという印象を持ちました。ただ、日本の場合は店舗面積が限られています。キオスク端末をすぐに導入するのは難しいと感じましたね。18年に日本でプロジェクトが始動し、国内市場においてデジタル化を進めるアイデアを議論した際は、「お店の利便性を高めるにはスマートフォンを使った店舗体験を提供することが現実的」という結論に至りました。

 モバイルオーダーはアプリに残った購買履歴を参照して、お気に入りの商品を素早くオーダーできる仕組みなどが面白いと感じました。スマホを使って店内飲食、ドライブスルーのオーダーができるという発想が当時はまだ見当たりませんでしたから。「これは(顧客の)店舗体験を一変させることができるのでは」と可能性を感じました。

 といっても、16年は日本での業績が低迷していた時期です。未来型店舗体験に関する議論が本格化したのは、実は18年からのことなのです。

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