日経ビジネス電子版で「走りながら考える」を連載中の人気コラムニスト、フェルディナント・ヤマグチさんはかなりの外食好き。「利益率が低いのに人に投資できる? フェル氏と語る外食完結編」では、外食店が頭を悩ませる人手不足について語ってくれました。2023年に入り外食店の売り上げや客足は回復しつつありますが、人手不足は解消されていません。他産業との人材獲得競争が激しさを増す中、外食はどう働き手を集めていくのか。そのヒントを探るべく、フェルさんから紹介された東京・目黒の外食店「茶割 目黒」を記者が訪ねました。

 JR目黒駅から徒歩2分ほどの場所にある外食店「茶割 目黒」。ほうじ茶やアールグレイなど10種類のお茶と、ラムやジンなど10種類のお酒のかけ算で生まれる「100種のお茶割り」を売りにしている。同様にお肉10種と味付け10種を組み合わせた「100種の唐揚げ」とのペアリングを薦めており、多様な味と選ぶ楽しさが魅力の人気店になっている。

茶割は「100種のお茶割り」を売りにしている(写真:陶山 勉)
茶割は「100種のお茶割り」を売りにしている(写真:陶山 勉)

 茶割の運営会社サンメレ(東京・杉並)の多治見智高代表に話を聞くと、多治見代表はこう切り出した。「アルバイトは、無責任になる」――

 これは、アルバイトは責任感が生まれにくく働きぶりが物足りない、という意味ではない。アルバイトを雇う店舗側の問題だという。店舗にとって、アルバイトは「いつでも切れる」存在だ。それにもかかわらずアルバイトに対して献身的な働きを求める、店舗からの“一方通行”の関係が無責任ではないかと多治見代表は疑問を口にする。

 新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年4月、学生アルバイトが卒業とともにお店をやめた。以来、アルバイトを雇わずに社員10人前後で茶割や菓子店など計4店舗を運営している。

 茶割の来店客は、よく「お薦めはありますか」と店員に尋ねる。従業員がお薦めを提案するだけならば数種類のメニューを覚えるだけで事足りるかもしれない。しかし茶割が接客で大切にしているのは、会話を通じて、来店客が飲みたいものを深掘りしていくことだ。そのためにはお茶の特徴や唐揚げとのペアリングについて詳しく知っている必要があり、短期的な働き方では難しい。多治見代表は「過去に働いていたアルバイトの人も『そこまでやりたいわけじゃないんだけど』と思っていたかもしれない」と振り返る。

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