日経ビジネスLIVEでは書籍『外食を救うのは誰か』の発行に連動したウェビナーシリーズを開催した。2023年1月19日の第2回は、「ロイヤルホストが挑む、アフターコロナの外食チェーン経営」がテーマだ。登壇したのは、ロイヤルホールディングス会長の菊地唯夫氏。人手不足や多様化する消費者の嗜好など、あらゆる産業が課題に直面している今、経営者はどう思考を転換していけばいいのか。菊地氏が語った。

(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)

鷲尾龍一・日経ビジネス記者(以下、鷲尾):本日は「ロイヤルホストが挑む、アフターコロナの外食チェーン経営」と題して、ファミリーレストランのロイヤルホストや天丼てんやなどを運営するロイヤルホールディングス会長の菊地唯夫さんにご講演いただきます。菊地さん、本日はよろしくお願いします。

菊地唯夫・ロイヤルホールディングス会長(以下、菊地氏):本日はよろしくお願い申し上げます。

 新型コロナウイルス禍で、私どもの業界も大きな痛手を受けました。私は従業員に向けて、我々が直面している現実は2つの見方があるというメッセージを発信し続けてきました。1つ目は、コロナ禍前は順風満帆だったのに、コロナ禍で大変な状況に陥ったという見方。もう1つは、コロナ禍前からさまざまな課題があって、それがコロナ禍で表面化したという見方です。後者の場合、その課題を解決するために、コロナ禍だからこそできる改革をしていくべきだと伝えました。

 本日は、コロナ禍前に外食産業はどのような課題を抱えていたのか。それに対して私なりに戦略を考え、アフターコロナにどういう未来を想像していくべきかをお話します。

人口減少に転じ、今までの産業モデルが通用しなくなってきた

菊地氏:コロナ禍前の課題を整理するに当たって、まずは外食産業の歴史を振り返ります。

 外食の産業化は、1970年代から本格化してきたといわれております。当時は経済が成長し、人口もどんどん増加していましたから、(外食産業も)成長するのは当然でした。ニーズが高まるわけですから、画一性、スピード、効率性がキーワードでした。各店舗を(一つひとつ)手作りでつくっていくよりも、お客様の喜ぶ業態を使って、いかにスピーディーかつ効率的に店舗展開していくか。このモデルを支えたのが、チェーン理論、セントラルキッチン、フランチャイズシステムだったと思います。

 しかし日本は今、人口が減少に転じ、生産性の低さや人手不足などの課題に直面しています。すると、人口が増加していたときにうまくいっていたモデルが、今後もうまくいく保証はありません。人口減少の社会におけるサステナブル(持続可能)な産業モデルを、一度立ち止まって考えるべきだというのが、私の問題意識です。

 外食業界は、これまでもいろいろな問題が起きていました。賞味期限切れ、異物混入、虚偽表示、バイトテロ、過剰勤務(長時間労働)問題。こういう問題が起こると、私どもも含め企業は何をやっているのだとお叱りを受けました。ただ、私が気になったのは、1社に問題が出ると、(問題の発生が)連鎖していくことです。これらは個別企業の問題ではなく、産業構造に問題があるのではないかと考えました。

 約30年というデフレの中、商品の単価が下がる一方で、コストはどんどん上がりました。これは外食産業に限らず、製造業やサービス業も同じように直面してきた問題ですが、製造業は生産拠点を海外に移すなどして何とかクリアしてきました。でも、外食産業はそう簡単にはできません。できることは、自分たちがコントロールできるコスト、つまり原材料コストや人件費を下げることだけでした。原材料コストを圧縮し過ぎた結果が、もしかしたら賞味期限切れ、異物混入、虚偽表示という問題の温床になっていたのかもしれません。