「アルバイトゼロの飲食店」の思想

F:そういえば、もともと飲食の業界の人じゃないんだけど、すげえ成功して、パクリ店も出まくりの、「茶割」って知ってる?

鷲尾:お店の名前ですか。

F:そう。僕とすごく仲のいい若い経営者がいるんですけど、バイトゼロ。全員従業員。

編集Y:それは何らかの思想があってそうなっているんですか。

F:ある。「バイトは無責任になるから」。

編集Y:バイトの働き方がってことですか?

F:違う。「バイトって雇用形態は、こっち(店)が“いつでも切れる”という一種の無責任じゃないですか。それを働く側にだけ責任を要求するのっておかしいですよね」と。

鷲尾:そうですね、本来はおかしいです。

F:こっちも客が来なくたってお給料を払う、だからちゃんと働いてね、という。バイトって店の側の、勝手な人の使い方なんですよ。それなのに「バイトにやる気がない」って、そりゃ働かないですよ。「そんな一方通行は許されませんよ。お互いにちゃんと責任を持たなきゃ」って言っています。

編集Y:もうけたくないんでしょうかね。多店舗化しているということは、企業として大きくなりたいという気持ちがあるんでしょうけれど。

F:「やられて嫌なことはしない」んだそうです。

鷲尾:それで人が付いてきて成長もできているとしたらすごいですね。

F:しかも彼は修業ゼロですよ、飲食店の。いきなりやっているんですよ。

編集Y:そうなんですね。

F:思うんですけど、それもよかったのかもしれない。僕、昭和の体育会系の部活経験者だから、先輩からそれこそ暴力的に、不合理な指導を散々受けたんですね。これを受けたやつが何を考えるかというと。

編集Y:まさか。

F:そう、自分たちがやられたことを下にそのまま繰り返してしまう。散々しごかれたんだから、俺たちも同じことをやらなきゃ収まらない。他のやり方を知らないから。でもあるとき、全日本レベルのプロのコーチが、「こんなばかなしごきはやめろ」と割って入って、合理的な練習をやらせて、やっぱりそれで結果は出ましたよね。他のロートルOBはブーブー言ってましたけど(笑)。

編集Y:組織の習慣は基本的に変わらない。

F:絶対そう。自力では変わらない。

編集Y:なるほど。

F:そういう意味でも新しい人が業界の外から出てくるのは納得できる。茶割の彼はまさにそうですよ。僕、鷲尾さんの本で「従来の外食の常識を変えている人がいる」と驚いたけれど、同じような人と仲良しだったことに、今気が付いたわ(笑)。

編集Y:従来の外食産業は賃金が安くても、「いつか成功するための修業なんだよ」というだましが効いていたわけですよね。

鷲尾:そんな古いセオリーにとらわれない経営者のお店には、今までとは毛色が異なる従業員が集まるのかもしれませんね。

F:だからなのか、すごいエリート大学の院卒の子とかが唐揚げを揚げていますよ。何で? と聞くと「いや、だって楽しいじゃないですか」と返ってくる(笑)。

編集Y:そういう人にちょっと生の声を聞いてみたいですね。

鷲尾:ぜひ聞いてみたいです。

編集Y:君は何のために唐揚げを揚げるのかというのを。

F:楽しいから、って、なんで楽しいと思うんだろうね。

鷲尾:そこに色々なヒントがありそうです。ぜひ紹介していただけませんか?

F:もちろんです。

編集Y:鷲尾くんの外食取材もまだまだ続きそうだね。フェルさん、本日はありがとうございました。

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