日経ビジネス電子版で「走りながら考える」を連載中の人気コラムニスト、フェルディナント・ヤマグチさんはかなりの外食好き。そのフェルさんと、書籍『外食を救うのは誰か』を2022年11月に著した鷲尾龍一記者の対談、最終回をお届けします。外食店の魅力である「ホスト力」と店舗拡大のバランスについて話した前回を経て、今回は外食で働く「人」に議論が広がりました。(編集Y)

(写真:PIXTA)
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編集Y:『外食を救うのは誰か』では、人件費を切り詰めて競争に勝とうとする外食産業の宿命と、そこから脱出しようとする新しい外食の姿が面白い、と、フェルディナント・ヤマグチさんに感想をいただきました。しかし、飲食業の勝ち組に知人も多いフェルさんにとっては、そこに大きな疑問があると。

フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):そうです。人に投資して共に成長しよう、という志の高いマネジメントは素晴らしいと思います。でも、それで外食で生き残って成長できるものなのか。だって死ぬほどプレーヤーが多い業界なんですよ。

編集Y:でも「人への投資」は、本音か建前かは別としてどの業界でも意識はされていますよね。外食だとそれが難しいんじゃないの? というのはなぜでしょうか。

F:利益率が圧倒的に低いじゃない。

鷲尾:10%で優良だと言われちゃうんですよね。コロナ禍に「勝ち組」と言われた回転ずしですら、原材料の上昇で大手は利益率が数%、もしくは赤字になろうとしているほどです。

F:そうですよ。利益率が低い中で、理念だ何だと言われても、いや、理念はいいけど、もうかるの? 理念でメシって食えないじゃないですか。何なら、お金が払えないから理念で従業員を鼓舞しよう、みたいなところもあるかもしれない。

編集Y:フェルさんがお付き合いしている、FLコスト(食材費、人件費)を強く意識している飲食の業界の人たちは、従業員のモチベーションを上げるためにどうしているんでしょう。

F:お給料を上げるよりも、よく旅行に連れていっています。

編集Y:旅行に連れていく、なるほど。

F:みんなで行って、わーっと。

編集Y:一致団結みたいな。

F:そうそう。「そんな金があるんだったら、今月の給料5万円上げてくれたら最高なんだけど」と従業員の人は思っているかもしれないけれど。やっぱり経営者はお給料って上げたくないですよ。給料は一度上げたら簡単に下げられないもん。

編集Y:モチベーションもがーんと下がりますね。

F:ただ、誤解してほしくないんですが、僕が知っている人たちは、今この瞬間、外食でちゃんとお店を続けて、生き残っているわけです。それだけで大変な実力があるわけです。コロナ禍前から、できる限り従業員の働き方や生活に配慮をしてきて、だからこそ今も店が続いている。そのくらい頑張っていても、従来の方程式を変えるのは難しい。

編集Y:働く人の「やりがい搾取」をなくすのと、企業としての成長、生き残りの両立は、利益率が低い外食産業ではことのほか難題である、ということですね。解として誰でも思いつくのは、大資本による徹底した社員教育とマニュアル化・システム化ですよね。マクドナルドとか、サイゼリヤとか。

F:そこを突き詰めると、半導体みたいに投資力の勝負になっちゃうんじゃない?

編集Y:マニュアル対マニュアルの戦いになったらやっぱり強いところしか残れない。

鷲尾:そうですね。効率性の追求でいくと、大手チェーンには勝てない。個店でも効率性は重要ですが、大手チェーンにはない個性を持って生き残り、成長する方法があるか、ということですね。

F:ですよね。しかもそこで働く人を搾取する構造をできる限り入れないで。

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