世界全体で数十万カ所ともいわれるワイナリー。その中の最高峰を決める「ワールド・ベスト・ヴィンヤード(ブドウ園)2020」(7月発表)で、ワイン大手メルシャンが運営するシャトー・メルシャン椀子(まりこ)ワイナリー(長野県上田市)が、世界の30位にランクインした(アジア最高位)。大手メディアではほとんど報じられていないが、ワイン業界関係者にとってこれは「とんでもない快挙」(ワイン専門店オーナー)だという。

世界30位に選ばれたシャトー・メルシャン椀子(まりこ)ワイナリー
世界30位に選ばれたシャトー・メルシャン椀子(まりこ)ワイナリー

 世界中のワイナリーから選出されたトップ50には、フランスの銘醸地ボルドーの著名ワイナリー、シャトー・マルゴー(22位)、シャトー・ディケム(31位)、シャトー・ムートン・ロートシルト(33位)、米国のカリフォルニアワインの権威、ロバート・モンダヴィ・ワイナリー(5位)、オーパス・ワン・ワイナリー(20位)など、世界屈指のワイナリーが並ぶ。

 フランスは国別で最多の9つのワイナリーがトップ50にランクインし、欧州が半数を占めた。その一方で、1位はアルゼンチンのズッカルディ・ヴァレ・ド・ウコが獲得し、2位にはウルグアイのボデガ・ガルソンがなるなど、トップ10に4カ所の南米のワイナリーが食い込んだ。

世界30位が「とんでもない快挙」なワケ

 ワールド・ベスト・ヴィンヤードは、国際的に権威あるワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」や「世界のベストレストラン50」を主催する英ウィリアム・リード・ビジネス・メディア社が、2019年に始めた。特徴は、ワインそのものの品質を競うのではなく、ワインツーリズムにおける競争力を評価する点だ。

 選考方法はこうだ。世界を18の地域に分け、ワインや観光の専門家が36人ずつ選ばれる。合計500人以上の投票者(非公表)は、全世界のワイナリーを対象に「訪問することを薦めるワイナリー」を投票。製品の品質だけでなく、ワイナリーの受け入れ態勢や景観・環境、建築物、製品づくりの思想などを総合的に評価する。

 景観に優れた広大な畑や有名建築家の手による建屋を持ち、観光客の受け入れ態勢が整っている南米のワイナリーが上位に食い込んだのはこのためだ。もっとも、肝心のワインの品質が高いことは、訪問を薦める上での“大前提”となる。20年は1800以上のワイナリーがノミネートされた。

 日本は18地域の1つで、36人の投票者が参加した。投票者は自身が17年以降に訪問したことがあるワイナリーの中から7つを選ぶが、そのうち4カ所以上は自分が居住する地域以外でなければならない。つまり、世界の評価を勝ち取らなければ、トップ50にはランクインできない。

生態系に配慮した開発・運営をする先進性

 椀子ワイナリーは、日本のワイン文化の発信基地を目指して19年9月に開所した。ワイナリー周辺のブドウ畑では03年から栽培を開始。日照や気温・湿度、土壌や風など、ブドウの栽培に適したまれな条件を備え、日本の気候風土でしか実現できない独自のワイン造りに取り組んでいる。地元の協力を得て、生態系に配慮した開発・運営をしてきた点も先進的といえる。ワイナリーツアーや地元と連携したイベントなど、ワインツーリズムも積極的に推し進めてきた。

椀子ワイナリー周辺のブドウ畑は、地元と協力し、生態系に配慮した開発・運営を目指してきた
椀子ワイナリー周辺のブドウ畑は、地元と協力し、生態系に配慮した開発・運営を目指してきた

 これまで世界では、日本ワインはほとんど知られていなかった。19年に投票者を務めたワインテイスターの大越基裕氏は、「海外経験のある若手醸造家がワイン造りの現場で増えたこともあり、この15年で日本ワインの品質は格段に上がった。世界30位に食い込んだことで大きな注目を集めた。世界市場で日本ワインのブランドを打ち立てるための突破口になる」と語る。

したたかなPR戦術が奏功

 ワインに先行して、国産品のブランド化に成功しているのがウイスキーだ。「ジャパニーズウイスキー」は、いまや世界5大ウイスキーの一角を占め、世界的な人気から慢性的な品薄が続く。00年代以降、大手メーカーの商品が国際的な品評会で受賞を重ね、認知度を高めた。その背景には、各社の製造責任者が、審査の行方にも影響を与える世界的な発信力のあるキーマンと人的なコネクションを築くという、地道なロビー活動があった。

 今回、椀子が30位にランクインできたのも、メルシャンのしたたかなPR戦術があったからだ。

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