「(新型コロナの感染拡大で)当社の『強み』に対するマイナス影響が広がった」。8月5日、アサヒグループホールディングス(GHD)の小路明善社長兼CEO(最高経営責任者)は、2020年1~6月期決算発表会見の冒頭でそう語った。

 アサヒの強みとは、大きなシェアを握る業務用ビールだ。主力の「スーパードライ」は、「ビールのトップブランド」であるという“称号”を武器に、多様な嗜好の客が訪れる飲食店で、支持を集めてきた。都内に店を構える飲食店オーナーは、「とりあえずスーパードライを置いておけば客から文句は出ない」と語る。

 ところが、新型コロナの感染拡大で状況は一変した。緊急事態宣言が発出された4月には、外出自粛により業務用需要が急減。飲食店に強いアサヒは、その影響をもろに受けた。4月、スーパードライの瓶と樽(たる)の販売数量は、いずれも前年同月比20%程度にまで激減した。宣言解除後の6月には瓶が同50%程度、樽が同65%程度に回復。7月の速報値では瓶・樽ともに同70%を超えた。ただし、時を同じくして、新型コロナの国内感染者数も増加に転じ、業務用需要の回復に水を差した。

 コロナ禍は長期化の様相を呈しており、小路社長は様々な予測を基に、新型コロナの影響が終息するまで「最低2年はかかる」との見通しを明らかにした。

アサヒビールの主力ブランド「スーパードライ」。缶商品は7月の販売数量が前年同月比で100%を超えた(写真:的野弘路)
アサヒビールの主力ブランド「スーパードライ」。缶商品は7月の販売数量が前年同月比で100%を超えた(写真:的野弘路)

 ビール大手4社のうち、アサヒビールの20年上半期のビール類のシェアは、本誌推定で11年ぶりにキリンビールに首位の座を明け渡し、2位になった(ビール類11年ぶりアサヒ抜きキリン首位、巣ごもりで本麒麟躍進)。家庭用商品の比率が高いキリンに追い風が吹いた。スーパードライは、忘年会やお歳暮などの需要で、例年、年末に大きな販売の山が来る。だが今年は、忘年会を自粛するケースが多発する恐れがあり、巻き返しは容易ではない。

レッドオーシャンの家庭用市場

 こうした中、アサヒが販売強化の主戦場と位置付けるのが家庭用市場だ。3月に発売した第3のビール「アサヒ ザ・リッチ」が好調で、5月には年間販売目標を当初の2倍に修正した。先行き不安による低価格志向と巣ごもり消費を反映し、第3のビールは市場全体の販売量で上半期として初めてビールを上回った。ただし、成長市場には、トップブランドのサントリービール「金麦」、上半期の販売数量を前年同期比で約4割伸ばしたキリン「本麒麟」などの大型商品がひしめく。

 ビールでも、サッポロビールの「黒ラベル」の缶商品が上半期の販売数量で前年同期比107%と追い上げている。同社の野瀬裕之常務は、「10月には(ビールが減税になる)酒税改正が控えており、優位に立てる」と強気の見通しを口にする。

 アサヒGHDの勝木敦志専務兼CFO(最高財務責任者)は、「酒税改正でビールへの需要シフトが起きる。その大部分をスーパードライで獲得したい」と意気込む。「本物のビールを飲みたいというインサイト(隠れた心理)が消費者にある」として、10月以降、新たなテレビCMや小売りの店頭での販促活動などを積極的に展開して巻き返しを狙う。

 ただし、市場での存在感がものを言う業務用と異なり、家庭用ではブランドそのものの魅力が勝負を分ける。1987年に彗星(すいせい)のごとく登場し、ビール市場の勢力図を塗り替えたスーパードライだが、飲用者の高齢化が否めない。令和時代の消費者に響く、新しい価値を訴求できるかがカギとなりそうだ。

 少子化や若者のビール離れ、そして健康志向も加わり、国内ビール類市場は、19年まで15年連続で縮小している。縮む市場でシェアを争う消耗戦から脱するためとして、アサヒは大手4社の中で唯一、今年からビール類合計の販売数量を非開示にした。「シェア競争」から「価値競争」に転換するという、小路社長が掲げてきたスローガンが、巻き返し戦略の中でどのような形で実を結ぶのか、注目される。

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