三越伊勢丹ホールディングス(HD)は2022年、そごう徳島店(徳島市)や松坂屋豊田店(愛知県豊田市)が撤退した商業ビルに「三越」を冠した小規模のサテライト店を相次いでオープンさせた。狙いは、日常的なニーズに応えつつ、地方の優良顧客を開拓していく「高感度上質戦略」の実行だ。三越伊勢丹HDの細谷敏幸社長は、「若手時代のマレーシア赴任や、傘下の岩田屋三越(福岡市)の業績回復を担った経験が生きた」と語る。

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細谷敏幸[ほそや・としゆき]氏
細谷敏幸[ほそや・としゆき]氏
三越伊勢丹ホールディングス社長CEO。1964年生まれ。87年に早稲田大学を卒業し、伊勢丹(現三越伊勢丹)に入社。30代で赴任したマレーシアではビジネスモデルを見直し、業績を大きく改善させた。2015年から三越伊勢丹執行役員となり、婦人雑貨統括部長や特選・宝飾時計統括部長を歴任。17年、三越伊勢丹ホールディングス執行役員に就任。18年4月から岩田屋三越の社長を務め、短期間での業績回復を果たした。21年4月から現職。(写真:都築 雅人)

三越伊勢丹HDでは、東北や四国などで小規模のサテライト店を展開しています。戦略の柱となっている「高感度上質戦略」について教えて下さい。

細谷敏幸社長(以下細谷社長):百貨店業自体が厳しい中、どのようにモデル転換を図り、新しい小売業をつくれるかが問われています。そこで、お客さま一人ひとりとつながる接点をいかに増やせるかを重視しました。ネットワークを築く方法の1つが「地域拠点が必要に応じてサテライト(衛星)を置く」という考え方です。個でつながったお客さまに、弊社グループ内での関わり方をどのように提案していけるかを大切にしています。

店単位ではなく、一人ひとりの顧客から得られる利益に着目したということでしょうか。

細谷社長:そうです。これまで店舗単位の利益は分かっても、お客さま単位の利益は見えていませんでした。そこで着目したのが"識別顧客"という考え方です。自社ブランドのクレジットカード「エムアイカード」や、電子商取引(EC)サイトの「三越伊勢丹オンラインストア」を使っていただければ、どのような消費行動を取られているか分析できます。弊社グループとしてお客さまとどの程度関わっていけるか、予想できるようになりました。

サテライト店を含む地域拠点は今後、さらに拡大していくのでしょうか。

細谷社長:大切なのは拡大ではなく、それぞれの地域拠点で何を実現したいかです。サテライト出店の条件は2つあります。1つは地方拠点の母店がちゃんと管理・運営できる状態をつくること。つまり、サテライト店を置くことで全体の経費を下げる状態にできるかが指標となります。もう1つは、やはり地域の方々に応援される場所になることです。

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