「日本と米国でコンビニエンス・モデルを再構築しながら、世界で通用するリアルプラットフォーマーとして展開したい」。日経ビジネスのインタビューでこう決意を語ったセブン&アイ・ホールディングス(HD)の井阪隆一社長(前回の記事)。再成長に向けた攻めの一手が、過去最大となる2兆円超を投じた米ガソリンスタンド併設型コンビニ「スピードウェイ」の買収だった。米国でセブンは何をしているのか。それを探るため、記者は米テネシー州ナッシュビルに向かった。

■掲載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)セブン&アイ、覚悟のコンビニ回帰 脱・流通コングロマリット
(2)セブン&アイ井阪社長「変わり続けねば死んでしまう」
(3)米コンビニ巨額買収の真の狙い 「セブン」のモデルは世界で磨く(今回)
(4)ネットで変貌する店舗 その先に見る勝ち筋
(5)加盟店オーナーとの関係構築 「信頼と誠実」どこまで
(6)鈴木敏文名誉顧問インタビュー「自ら歴史を創り出せ」

 「ピンポーン」。ドアを開けると、米国では聞き慣れない効果音が鳴った。日本でおなじみの音階ではないものの、どこか日本を思い起こさせる。ここは米テネシー州ナッシュビルの中心街からクルマで南東に1時間ほどの場所に立つ米セブン-イレブンの「モデル店」。米国に多い、ガソリンスタンドに併設されたコンビニエンスストアだ。

米テネシー州ナッシュビル近郊にある「モデル店」。フレッシュフードを充実させている
米テネシー州ナッシュビル近郊にある「モデル店」。フレッシュフードを充実させている

 広々とした店内にはファストフードのカウンターが2つ並ぶ。タコスなどメキシコ料理を提供する「Laredo Taco」とフライドチキンなど米南部料理を振る舞う「Raise the Roost」だ。窓際の見晴らしの良い場所には十数人分の広いイートイン・スペースがあり、コンビニというよりドライブインに近い装いだ。

 店内調理のフレッシュフードは利益率が高い。全米約500店に同様の店舗を展開するセブン-イレブンは2025年までにさらに2000店にファストフードを導入する計画だ。

セブン-イレブンの店内にあるタコスとフライドチキンを提供するファストフードのカウンター
セブン-イレブンの店内にあるタコスとフライドチキンを提供するファストフードのカウンター

 コンビニに欠かせない商品も勢ぞろいしていた。ホットコーヒーやソフトドリンクを注げるドリンクコーナー、ローラーの上でクルクル回転する温かいソーセージ、冷蔵ショーケースに並ぶ色とりどりのサラダ……。この場所まで記者を連れてきてくれたウーバー運転手の初老の女性は店内を見て「とても清潔ね。陳列も整然としていて商品を選びやすい」と印象を語った。

 米国はよほどの都市部でない限り生活にはクルマが不可欠だ。米調査会社IBISワールドによると、米国のガソリンスタンド併設型コンビニの市場規模は22年に4698億ドル(約54兆円)の見込み。過去5年の年平均成長率は3.1%で、米全体の産業のそれを上回る。

 その市場で勝負に出たセブン&アイ・ホールディングス(HD)。店舗数は既に約9400店と米国でトップだったが、約2兆3000億円を投じて「スピードウェイ」を買収。約3200店舗を上乗せした。小規模チェーンが多い米国のコンビニ市場で、店舗数シェアでは8%超となった。

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