井阪体制、波乱の船出から6年

 井阪社長がセブン&アイHD社長に就任してから間もなく6年。思えば、波乱の船出だった。

 セブン&アイHDには絶対的な「カリスマ」がいる。鈴木敏文氏だ。1973年に後のセブン-イレブン・ジャパンとなるヨークセブンを設立し、コンビニエンスストアを日本中に広めた立役者だ。2005年からはセブン&アイHDの会長兼最高経営責任者(CEO)として営業収益約6兆円の巨大流通企業に育て上げた。

 約40年にわたり経営トップを務めた鈴木氏が突如として退任を表明したのは16年4月7日のこと。同日に開催された取締役会で、鈴木氏の提案した人事案が否決されたのが退任の理由だった。その人事案こそ、当時セブン-イレブン・ジャパンの社長兼最高執行責任者(COO)だった井阪氏を退任させ、副社長の古屋一樹氏を昇格させるというものだった。

コンビニを日本に定着させた「カリスマ」鈴木敏文氏は2016年、井阪隆一氏の退任を取締役会に諮った結果、自らの退任を決めた(写真:的野 弘路)
コンビニを日本に定着させた「カリスマ」鈴木敏文氏は2016年、井阪隆一氏の退任を取締役会に諮った結果、自らの退任を決めた(写真:的野 弘路)

「課題に目を向け、改善を」

 この案は創業者である伊藤雅俊名誉会長の反対に遭い、15人が参加する取締役会では賛成が過半に達せず否決された。記者会見した鈴木氏は創業家について「世代が変わった」と発言するにとどめ、「反対票が社内の役員から出るようならば、私が信任されていないということだと考えていた」と説明した。

 お家騒動の内幕を見せるような異例の記者会見から約2週間後、セブン&アイHD社長への就任が決まったのが、鈴木氏から退任を迫られていた井阪氏だった。「鈴木敏文元会長が築き上げた変化への対応をベースとした単品管理の思想に、さらに磨きをかけていく。一方、課題にも目を向け、改善していかないといけない」。16年10月、社長就任から約100日後に開催した中期経営計画(通称「100日プラン」)の発表会見に臨んだ井阪氏はこう決意を述べた。

鈴木氏の後を継いで経営トップに就いた井阪氏には、抜本的な改革を求める外部からの圧力が強まっていた(写真:的野 弘路)
鈴木氏の後を継いで経営トップに就いた井阪氏には、抜本的な改革を求める外部からの圧力が強まっていた(写真:的野 弘路)

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