これまで、3万人以上の営業の方々をご支援してきました。その過程で「お客さまの予算が限られている中、どうやって価格の壁を突破するか」というご相談をたくさんいただきました。
具体的には――、
- ●(提示した見積もりに対して)「高いですね」という反応をされた。
- ●「このままの価格では社内の稟議(りんぎ)を通らない」とコメントされた。
- ●他社の価格を引き合いに出して、「もっと安くならないか」と打診された
――といった状況に直面したが、どうしたらよいかというものです。
「結局、お客さまは価格で決めるんです」は本当か
営業パフォーマンスが上がらずに苦しんでいる営業担当者は、よく「結局、お客さまは価格で決めるんです」とおっしゃいます。
確かに、お客さまの立場からすると、「なるべく安く買いたい」というのは自然な心理です。では実際のところ、お客さまはどのように購買行動を決定しているのでしょうか。
会社の予算を使って営業から何かを購買した経験がある方に対して、当社では全24問からなるアンケートを実施してみました。その中の一つに、「発注先の会社を選定するにあたって、あなたが普段、重視していることを1位~3位まで選んでください」という設問があります。
発注先を決める際の選定項目に1位、2位、3位という具合に、順位をつけていただきました。このグラフの赤い線の囲みのところにご注目ください。
価格に関連する項目が2つ並んでいて、一方の「費用対効果への納得感」は非常にスコアが高くなっています。もう一方の「とにかく他よりも金額が安い」という項目のスコアはそれほど高くありません。
2つとも価格のことに言及しているのですが、意味合いは違っています。「費用対効果への納得感」は、効果と比べたとき、価格に納得できるかどうかということで、「とにかく他よりも金額が安い」は、他の会社の見積もり額と比べています。
「提案はお客さまの心に刺さっていたのですが、価格で負けました」という報告は、営業組織でしばしば見られます。しかしその裏側にあったのは、費用対効果に対するお客さまのシビアな目線だったということが、実際にはよく起こっています。
「高いと言われたら、すぐ値引き」が条件反射になっていたり、価格を原因にした失注報告をしたりしている営業担当者は、価格以外に戦う術を知らず、「営業の勝敗は価格で決まる」と思い込んでしまっているのです。
「価格」と言っても、それは「費用対効果への納得感」と「他社との金額比較」のどちらのことを指しているのか。そこが大きな問題です。
「価格が少し高いですね」の裏にある建前と本音
お客さまがおっしゃる「価格が少し高いですね」は、営業をされている方であれば、誰しも聞いたことのあるセリフでしょう。ただ、それが費用対効果のことを言っているのか、他社との金額比較なのかを確かめようと思っても、実際のところ、どうなのかは、探りづらいのが現実です。
営業担当者に対して、お客さまが正直に話してくださるとは限らないからです。
このグラフは、提案を受けたが、発注に至らなかった理由についてのアンケートの結果です。興味深いのは「営業担当にどう説明しましたか」と「断った本当の理由は何でしたか」という2つの角度から質問しているところです。
その結果、お客さまが「とりあえず」答えた建前の理由と、「実は」という本音の理由のギャップが見えるようになっています。
それぞれの項目について、「建前のスコア」から「本音のスコア」を差し引き、その値が大きい順に上から下へ並べています。下にいけばいくほど、建前より本音のスコアが高くなります。
すなわち、本音より建前のスコアが高い上の方は「実際に思っていなくても、とりあえずそう伝えた」という度合いが強く、下の方は、「言わなかったけれども、実際はこう思っていた」という度合いが強くなっているわけです。
実際に見てみると、上側にくるのは、「他社が安かった」「提案の内容が要件に合わなかった」というものです。これは、実際にそう思っていなくとも、とりあえず営業担当者に対して「他が安かったので」「求めているものとは少し違ったので」といったセリフで断ったお客さまが多くなりがちであることを意味します。
一方、グラフの下側の方には「なかなか言えない本音」があります。
担当者に対する不満などは、お客さまが心のなかで思っていても、なかなか口にはできません。ただ、ここで特にご注目いただきたいのは、「費用対効果」という項目について、本音が建前のスコアを上回っていることです。
費用対効果は、お客さまが重要視しているポイントにもかかわらず、費用対効果に納得いかなかったことは、営業に対して隠されがちなのです。お客さまにとっては、費用対効果について抱いた疑問を営業担当者に伝えることが、面倒に感じられるのでしょう。
こういった建前と本音に振り回されずに、お客さまの心の内をどうやって捉えればいいのでしょうか。そして、価格や予算の壁を突破している営業は、いったいどうやって提案をしているのでしょうか。
皆さんにとって身近な、引っ越しの物件探しを例に考えてみましょう。
「当初の予算より高い物件に引っ越す」のはどんなときか
たとえば、皆さんが、引っ越しをしようとして物件を探しに、街のなかにある不動産屋さんに入ったとします。
最初は、「家賃12万円を超えないぐらいで、A駅やB駅から徒歩7分以内のエリアにある物件がいいな。間取りは1DKで、築年数は10年以内が希望かなあ……」のように、担当の方に伝えるでしょう。
この希望条件を分解すると、このようなイメージです。
- ●家賃の予算「12万円を超えない」
- ●エリアやアクセス「A駅やB駅から徒歩7分以内」
- ●間取りや広さ「1DK」
- ●築年数「10年以内」
この条件で不動産屋さんは物件をリストアップして提示してこられますが、もちろん、条件が良くてみんなが住みたがるような物件は成約済みであることが多いでしょう。
当初の提示条件に基づいてリストアップされた物件を順番に内見してみるが、どうもしっくりこない……。たとえば、こんなとき、「この物件は、家賃のご予算を少しオーバーしているのですが、スーパーやクリーニング屋さんが近くにあって便利ですし、大きな道路から少し離れているので、静かで落ち着いているんですよ。あと、新築なのできれいですから、住んでみると快適なのでは」といった物件を提示されるとします。
そうすると、
- ●生活の利便性「スーパーやクリーニング屋さんが近い」
- ●近隣の雰囲気「静かで落ち着いている」
-
――こんなメリットが浮上してきます。
さらに、こんなポイントも追加されます。
もし皆さんがこの物件を気に入ってきた場合、心の中では、このように考えたりしませんか。
「確かに家賃は少しオーバーするかもしれないが、その分、生活の利便性や近隣の雰囲気はいい感じだ。そして、新築できれいなのは、確かに、気持ちもいいだろう」
結果として、当初の家賃をオーバーした物件であっても、引っ越しを決めてしまうかもしれませんね。要するに、「価格の絶対的な金額ではなく、費用対効果で考えるモードになった」ということです。
では、これを皆さんの営業活動に当てはめてみるとどうなるか、考えてみましょう。
費用対効果で考えていただく「要件整理に基づく問いかけ」とは
たとえば、皆さんが会社のホームページを制作する会社に勤める営業担当者だったとします。お客さまは、ホームページ制作を依頼したい会社や個人、ということになります。
お客さまがこんな依頼をされてきたらどうでしょうか。
「うちの会社のホームページをリニューアルしたいと思っています。とにかくできる限り安くお願いしたいです。あ、あと、デザインは見栄えを良くしてもらって、なるべくスピード対応でやって頂けるとうれしいです。他の会社さんにもお声がけしていますので、ベストなご提案をよろしくお願いいたします!」
お客様のご要望には、
が言及されています。
このまま提案を考えると、曖昧ながらも厳しいお客様のリクエストに対して、消耗戦になりそうな予感がしますね。そこで、先ほどの「費用対効果で考えて頂くための、問いかけ」を考えてみます。
たとえば、こんな問いかけが考えられますね。
- ●いま挙げられた「価格・デザイン・対応スピード」の3つ以外に大事なことはありませんか。もしかしたら、「会社のブランド向上」や「集客率アップ」など……(網羅性の確認)。
- ●「スタイリッシュ」とおっしゃいましたが、具体的にどのようなイメージでしょうか。こちらにいくつかサンプルございますので、AとBだったらどちらがお好みか、ご意見いただけますか(具体感の確認)。
- ●価格を重視しすぎると、デザイナーのクオリティーや納期に影響が出てきます。また、会社のブランド向上や集客率アップなども含めて、いちばん大事なことを改めて教えていただけますか(優先順位の確認)。
お客さまの要望をそのまま受け止めて提案するより、要件整理に基づいた問いかけがあることで、お客さまにとっては、「当初はそこまで考えていなかったようなポイント」があぶり出されてきたり、頭の中が整理されたりすることによって、費用対効果をしっかりと考えやすくなります。
これは、先ほどお話した引っ越しの物件探しに当てはめると、「価格の絶対的な金額ではなく、費用対効果で考えるモード」になっていただくための働きかけに相当するものです。
課題や要望などの「要件」を整理していくことによって、お客さまの課題解決をより良く行えるようになり、結果的には、「予算の枠にブロックされる」ということも減っていくはずです。
「コンペで8年無敗」のノウハウを体形的に解説
「営業力とは技術である。誰でも身につけられる」
東大卒、自分自身「コンペで8年無敗」の実績を持つ営業パーソンでもある筆者が、ついにそのノウハウを一冊の本にまとめて公開しました。「営業力は技術だから、誰でも身につけられる」という信念のもと、営業未経験から業界トップレベルに至るまでのステップを、ひたすら具体的に体系化したのです。
営業担当者とお客さまの間にある情報ギャップを乗り越えて、接戦を制する「3つの質問」が一つの柱です。「接戦状況を問う質問」ほか、具体的にその狙いと使い方を解説します。もう一つが、お客さまの希望や期待と、実際の営業活動のズレを解消する「4つの力」です。「質問力」「価値訴求力」「提案ロジック構築力」「提案行動力」として実用的に解説します。
「営業を科学する」が本書のモットー。勘や経験に頼らずに営業パーソンが育ち、そして着実に成果を上げる方法がここにあります。多くの営業経験者は目から鱗が落ちる思いをしていただけるはずです。
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