日銀の大規模な金融緩和による投資マネーが流れ込み、不動産開発が活況な東京都心。ホテルやオフィス、商業施設に比べて収益性が低く、各戸を分譲する手間もかかるマンションは用地確保で苦戦を強いられている。2020年も引き続き、供給の「頭打ち感」は強まりそうだ。
不動産経済研究所(東京・新宿)の調査によれば、13年に約2万8000戸だった東京23区の新築マンション供給戸数は16年以降、1万5000~1万6000戸と低水準で推移。土地代や建築コストの高騰に伴う価格上昇も激しく、13年に5800万円台だった平均価格は足元で約7300万円にまで上昇している。
価格は高止まり、供給量は低水準で推移
●東京23区の新築マンション発売戸数と平均価格
出所:不動産経済研究所のデータを基に作成
これまで市場をけん引してきたのは、夫婦ともにフルタイムで働く「パワーカップル」だが、世帯年収が1000万円を超える彼らにとっても都心のマンションは高嶺の花になりつつある。購買力の限界とされている8000万円が視野に入る中、都心の好立地のマンションをめぐる需要は鈍化。販売を始めた月に契約に至った割合を示す「初月契約率」は、19年1~10月の平均で64.2%、好不調の境目とされる70%を割り込んでいる。
売れ行きが鈍いにもかかわらず、価格が高止まりしている背景の一つには、マンションデベロッパーの寡占化がある。住友不動産、三井不動産、三菱地所、野村不動産、東急不動産、東京建物、大京──。「メジャー7」と称される大手7社が発売戸数に占めるシェアは、07年には22%だったが、18年には46%にまで上昇している。
また、大手各社はマンション以外にもホテルやオフィス、商業施設なども手掛け、以前よりも経営が多様化し体力もある。グローバルにみれば、東京の不動産が割安だという見方も業界では一般的で、当面は強気な価格設定が続く見通しだ。
東京五輪・パラリンピックの選手村は、大会後にはマンションとして分譲される
イノベーションが下支え
景気拡大の継続で好調な業績を反映するように、各社のオフィス需要は旺盛だ。東京都心では延べ床面積1万坪以上の大規模オフィスビルの竣工が続いているにもかかわらず極めてタイトだ。
東京都心のオフィス需給はひっ迫
●千代田、中央、港、新宿、渋谷5区の平均空室率の推移
出所:三鬼商事のデータを基に作成
オフィス仲介大手の三鬼商事(東京・中央)によると、都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の10月時点のオフィス空室率は1.63%。18年11月以来、2%を割り込んでいる。実質的な需給均衡の目安とされる5%を下回る水準だ。平均賃料は坪当たり2万2010円で、70カ月連続で上昇している。
IoT(モノのインターネット)やビッグデータ、AI(人工知能)といった技術革新による産業構造の変化も追い風だ。イノベーションを起こそうと、ゆとりあるオフィス空間を求める中で、社員1人当たりの床面積が広がり、オフィスの大量供給をこなす格好となっている。
先行き厳しい戸建て住宅
市場縮小を受け、戸建て住宅各社は生き残りに懸命だ
●新設住宅着工戸数の推移
注:国土交通省調べ
人口減少で市場が縮小する中、構造改革を迫られているのが、戸建て住宅各社だ。野村総合研究所が30年度の新設住宅着工戸数は63万戸にまで落ち込むと予測するなど先行きは厳しく、大和ハウス工業は物流施設、積水ハウスはホテルといったように各社は領域の拡大に力を入れる。
トヨタ自動車とパナソニックによる住宅関連事業の統合も生き残りに向けた布石だ。両社が折半で出資して20年1月に立ち上げる新会社「プライム・ライフ・テクノロジーズ」の傘下にはトヨタホームやその子会社ミサワホームなども入る。さらなる業界再編の呼び水となるのか注目を集めている。
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