新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、感染者数をはじめ膨大な情報が伝えられ、それによって私たちの日常生活や産業経済が日々揺さぶられる、まさにインフォデミック(真偽定かでない情報が、感染症のごとく大量に拡散する現象)という事態になっている。
 そこで、医療や健康についての情報を研究対象とする、健康情報学の第一人者である、京都大学大学院医学研究科の中山健夫教授に、withコロナの時代における情報とのつき合い方について聞いた。

中山健夫(なかやま・たけお)
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野教授。1961年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。米国UCLAフェロー、国立がんセンター研究所室長を経て、2000年京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻助教授、2006年から現職、2016-9年 同副研究科長・同専攻長。同専攻ベストティーチャー3回受賞。社会医学系専門医・指導医。厚生労働省・経済産業省 大規模実証事業・有識者会議座長、厚生労働省eヘルスネット情報評価委員長、日本医療機能評価機構医療情報サービス事業Minds運営委員長を務める。

編集部(以下、)そもそも健康情報学とはどういう学問ですか?

中山健夫さん(以下、中山):健康情報学は健康・医療に関する問題解決を支援するために、情報のあり方を考える学問分野です。情報を「つくる・つたえる・つかう」の視点から、従来の公衆衛生や臨床の枠組みにこだわらず、EBM(根拠に基づく医療)、診療ガイドライン、情報リテラシー、ヘルス・コミュニケーション、情報倫理などの教育・研究を進めています。

感染症の専門家以外の現場でも成果をあげつつある

新型コロナウイルスは健康情報学の喫緊のかつ、格好のテーマですね。

中山:はい。確かにコロナウイルスは大きなテーマです。しかし、それがすべてではありません。当然ながらすべての医療研究者がコロナに向かってしまったら、そのほかの領域がおろそかになります。バランスをとることが大切です。

 今回のコロナ感染拡大の初期には、「専門家の役割」がクローズアップされました。私も公衆衛生の専門家でありますが、感染症の専門家ではありません。医師の世界も縦割りで細かく分かれており、各分野の専門家であるほど、感染症の領域に中途半端に関与するのは危ないと思っていました。言い方は悪いですが、当初は「頑張ってね」という感じでした。

 ところが2020年4月以降は感染症の専門でないからこそ可能な新たな視点のアプローチが増えてきました。新型コロナは、がんや高血圧、糖尿、出産、高齢者医療など多くの医療に大きな影響を及ぼし始めた結果、感染症以外の分野でそれぞれの専門家が多様な対応策・解決策を模索し始めました。

コロナの感染者はここへきて再び急増しています。一方で欧米諸国に比べると、日本の重症者数や死亡者数は少ないです。

中山:当初は正体がまったくつかめなかった新型コロナですが、4月以降、分からないながらも、治療の現場では、次第に患者が重篤化しそうな兆しを見つけられるようになってきたと聞きます。適切な治療薬投与や治療法が、医師・病院単位で共有され、行政との連携、医療ガイドラインや論文のレベルでも、フォーマル・インフォーマルに情報共有されてきました。その裏返しですが、コロナの死亡者・重症者数のサンプルが少ない日本は、臨床研究の成果が少なくなっています。

「半グレ」「フェイクニュース」と同様な「やっかいな存在」

新型コロナウイルスは「半グレ」や「フェイクニュース」に似ていると発言されていますが、どういうことでしょうか?

中山:新型コロナウイルスに感染すると、高齢者や基礎疾患を持つ人は重篤化の可能性が高まりますが、若い世代にはほとんど影響ありません。また感染しても多くの人に症状が現れないため、感染の連鎖を止めにくい。これを犯罪者に例えれば、外目にもはっきり悪だと分かる“ヤクザ”ではなく、市民社会に紛れ込む“半グレ”という感じです。

 また、フェイクニュースというのは全部が全部間違ったニュースなのではなく、正しい情報と間違った情報が交じり合っています。だからこそ信じる人が出てきます。そういう意味で、これも新型コロナと似ており、社会にとっては非常にやっかいな存在だと思います。

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