BCGやアクセンチュアで戦略コンサルタントとして活躍し、無類の本好きとして知られる三谷宏治氏に、「ニューノーマルの時代にこそ読みたい本5冊」について伺った。曰く、「近視眼に陥らず、人類史・ウイルス史レベルでものごとを考えることが重要」とのことで、人類・ウイルスの歴史的経緯を学ぶことができる5冊のおすすめ本をご教示いただいた。

三谷 宏治(みたに こうじ)
1964年大阪生まれ、福井で育つ。東京大学 理学部物理学科卒業後、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、アクセンチュアで19年半、経営コンサルタントとして働く。92年 INSEAD MBA修了。2003年から06年 アクセンチュア 戦略グループ統括。06年からは子ども・親・教員向けの教育活動に注力。現在は大学教授、著述家、講義・講演者として全国をとびまわる。K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授の他、早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学 客員教授。放課後NPO アフタースクール・NPO法人 3keys 理事を務める。『経営戦略全史』は「ビジネス書大賞」「HBR読者が選ぶベスト経営書1位」とビジネス書アワード2冠を獲得。永平寺ふるさと大使。3人娘の父。

COVID-19でわかった日本の弱点と世界各国の状況

 われわれは常に近視眼的である。日々の関心事は、温暖化などの気候変動より、株価や経済、政治動向などであり、さらには家庭の細事である。今回の米国大統領選でも私はほぼ3日間、ほとんど寝ずにCNNの特番放送を見続けた。これは今後4~8年の世界政治・経済に大きな影響を及ぼすというだけでなく、おそらくはトランプが数年前に行った「政治のバラエティショー化」の影響でもあるだろう。お陰で人々は(私も含め)次期大統領を、その政策や実行力ではなく、「好き嫌い」で選ぶこととなった。これはなんら、家庭の細事と変わりない。近視眼的なわれらにピッタリだ。

 話は脱線したが、この寄稿文のテーマは「ニューノーマル」だそうだ。よくわからない新語の意味を問うても詮無いので、とりあえずは「COVID-19でわかったこと」を書くこととしよう。そしてその結論を一言で言うならば、「近視眼に陥らず、人類史・ウイルス史レベルでものごとを捉えよう」だ。

 「わかったこと」の第一は、COVID-19がこれまでにない特異な感染症であったことだ。「感染力も致死率も中程度」なのだが、「発症前に感染する」ところがなんとも困った点。しかも高齢者や合併症のある者は重篤になるが、若者ではなりにくいので動き回って、感染範囲が非常に拡がりやすい(重篤になりやすい感染症は、感染源がすぐ動けなくなるので、逆に感染は拡がりにくい)。

 しかし未知のウイルスであったことはどこでも同じなのに、その感染者数や死者数は国・地域によって2000倍以上も違う。人口100万人あたりの死者数は(2020年11月10日現在)、米国・メキシコ・ブラジル・フランス・イギリスなどが700~800人程度、ドイツは140人、日本が15人、韓国が9人だ。そしてなんと中国のお隣でもある台湾は0.3人にすぎない。つまり未知といいながら、対応次第でもあったのだ。

 台湾は過去のSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓に学んでいた。態勢を整え、即座に行動し、感染症を抑え込み、2020年度のGDPはプラス2%の成長を見込んでいるという。でも日本政府は過去の類似の感染症に学ばなかった。いや、学んで方針も出したけれど、それが実行されることはなく、逆に保健所は縮小された。しかも古代的情報インフラ(FAX)をそのままにしたまま。

 どうも日本という国は、立派な方針は出すが、その実行はとてつもなく遅い(か逆行する)らしい。感染症対策だけでなくIT基本方針うんぬんもそうだった。そしてたまに急ぐととてつもない暴走をする。アベノマスクも9月入学議論も「ただの思いつき政策」の最たるものであった。そこには定量性も論理性もまったくない。もっと学び、ちゃんと考えようではないか。

人類は、ウイルスの独自機能を取り込むことで進化した

 そもそもウイルスとは何だろうか。忌むべき存在というだけなのか。そして感染症はなぜ最近、猛威を振るうようになってきたのだろうか。前者については『破壊する創造者』が、後者については『感染症の世界史』や『10の「感染症」からよむ世界史』が教えてくれる。

 『破壊する創造者』を読むと、ウイルスは単なる破壊者でなく、われわれの遺伝子内に入り込んで、その進化を加速させている創造者でもあるということがわかる。単なるコピーミスによる漸進的進化ではなく、ウイルスが持つ独自の機能を塊ごと取り込むことで、人類はその進化を続け、環境の激変を乗り越え、この繁栄を勝ち取ってきたのだ。

『破壊する創造者――ウイルスがヒトを進化させた』 ハヤカワ・ノンフィクション文庫、フランク・ライアン(著)、夏目大(訳)

人類の文明化が、感染症を拡げパンデミックを引き起こしている

 そして同時に『感染症の世界史』は、その繁栄こそが、この感染症拡大につながっていると教えてくれる。われわれヒト(ホモ・サピエンス)の文明化そのものが、感染症を拡げパンデミックを引き起こしているのだ。ヒトは密林を切り拓いて自らウイルス感染源に近づき、都市化を進めて互いに密になり、交通機関を発達させて感染を遠くへ急速に拡げるようになった。それが文明化であり、感染症、パンデミックの発生理由だ。

『感染症の世界史』 角川ソフィア文庫、石弘之(著)
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