(前回はこちら→「新型コロナ第3波、再度の緊急事態宣言は『あり得ます』」)

 連載でご好評をいただいた、ウイルス免疫学の研究者、峰宗太郎先生へのインタビュー(記事リンクはここから)。こちらを再編集し、大幅に加筆して、日経プレミアシリーズより新書『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』としましたところ、発売即重版、3刷となり、各地で品切れを起こしてご迷惑をおかけしております。大増刷をかけまして、ぎりぎり年内には書店さん、ネット書店さんに再入荷するかと思います。お見かけの際はどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、直近の新型コロナ関連の話題は英国で最初に報じられた変異ウイルスについてでしょう。再流行拡大への影響、新型ワクチンは効くのか、などなど、不安や疑問が次々に出てくるかと思います。書籍ではほとんど触れられなかったテーマでもあり、改めてがっつりと伺ってきました。また、書籍校了後に得られた知見から、峰先生は「積極的に、できるだけ早くmRNAワクチンを自分も接種する」と考えを改めました。ここでフォローさせていただきます。

私はmRNAワクチンを打ちます

編集Y:冒頭からツメちゃいます。峰先生、「モデルナかファイザー・ビオンテックのmRNAワクチンを自分にも打つ」と先日twitterで宣言されましたね。書籍の段階ではmRNAワクチンに対して、ポジティブだけれどもっと慎重だったように思いますが、お考えを変えた背景を聞かせてください。

峰 宗太郎先生(以下、峰):はい、それは単純で、書籍の校了(最終的なOKのこと)後に実際にヒトで試した試験結果がどんどん出され、その結果を見たからですね。ヒトに大規模に打ったことがないから不安だったところが大きかったのですけれども、試してみたそのデータを見て、これは、打つ価値があると判断しました。

 出てきた情報を見たら、安全性・効果いずれについても、その他のデータについても、どれも唸らされるものでした。最終的な後押しになったのは12月11日のFDA(米国食品医薬品局)の諮問委員会の審議です。審議はYouTubeで公開されていたんですけれども、それを全部見ていました。

 本当にサイエンティフィック(科学的)にみんな真摯に、批判的レビューも加えて投票も公開で賛成17、反対4、棄権1。あらゆる角度から、エシカル(倫理)な面も分子生物学、毒性学とかの視点でもよく検討されています。これだけの数のヒトに打たれたもので、科学者も非常に厳しい目で見ている中で開発されたのであれば、まあ、これ以上のものはこの速度では望めないと思いますね。もちろん、これは私自身の判断で、どなたかに強制するものではまったくありません、念のため。

編集Y:はい。当初、峰先生が慎重に考えていた理由も本書にたっぷり書いてありますので、ご自身の判断の一助になればと思います(そして実は今回のインタビューで、mRNAワクチンについて面白い話をたくさん伺っているのですが、今回はウイルスの変異というテーマだけで膨大な量になるので、涙を呑んで割愛します)。

ジョンソン首相のスピーチのネタ元

編集Y:さて2020年12月19日、英国のジョンソン首相の記者会見をきっかけに「新型コロナウイルスの変異」の話題があっというまに広がっています。例えばこちら(「英で拡大のコロナ変異種『従来より7割流行しやすい』…ジョンソン首相」12月20日付読売新聞)。「7割!? だから英国でまた感染が広がっているのか」と、センセーショナルに報じられていますが。

:ジョンソン首相のお話のネタ元というか、ソースの一つはこちらです。「COVID-19 Genomics UK consortium」。こちらのコンソーシアムでは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノム(遺伝子情報)をばんばん解読し、まとめてデータにして評価しているんですね。そこが「こういう変異ウイルスが見つかって、今流行している」と出したリポートとそのリスクアセスメントが今回報じられた内容の基になっています。
 そもそもウイルスの変異というのは、今回の本の中では触れなかったんですよね。

編集Y:はい、残念ながら。ですのでここで補完できればと。

『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』より
『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』より
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:とはいえ、本を読んでウイルスの増え方について知っておいていただければ、ここから先の理解も早いと思います。まず、復習から。新型コロナウイルスはどのように増えるんでしたっけ。

編集Y:ウイルスは生物のように自己増殖、すなわち自分自身でDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)の複製をすることができないんですよね。だから、感染した生物の細胞の中にあるリボゾームなどの、DNA複製工場の機能をいわば乗っ取って、自分のDNAやRNAをコピーさせて、人間や動物の体内で増えていく……。

:はい、ではDNAとRNAはどういう関係にありますか?

編集Y:ヒトも含む細胞内で遺伝情報はDNAという安定した形で保存されていて、コピーするときにRNA(正しくはmRNA=メッセンジャーRNA)に転写する、でしたっけ? データがDNA、コピーがRNA。

『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』より
『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』より

:ざっくり正解です。ちなみにウイルスは自分のデータをDNAで持つタイプとRNAで持つタイプがありますが、新型コロナウイルスはどちら?

編集Y:後者でしたね、RNAで持っている。

:よくできました、ですね。さて、「新型コロナウイルスの変異」というのは、基本的にそのRNAに書き込まれている遺伝情報が書き換わってしまうことを言うのですけれども、RNAが書き換わっただけで「変異した」とは言えますが、ウイルスの性質が変化するかどうかは実は分からないんですよ。

編集Y:なぜでしょう?

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