全5962文字

 『嫌われる勇気』の愛読者として知られるバイオベンチャー・ユーグレナの出雲充社長が、初めて著者の岸見一郎氏と対談した。

 対談に先立ち、岸見氏がリーダーシップを論じた著書『ほめるのをやめよう』を読んだ出雲社長。その主張に共感するものの、いざ実践に移すとなると難しいポイントがあると、前回、打ち明けた。

 例えば、同じ会社で共に働く仲間に対し、いけないと思いつつ、ついつい怒りの感情がにじんでしまうことがある……。

 そんな出雲社長のリーダーとしての悩みに、岸見氏は、どう答えるか。

今回は、出雲社長の悩み相談の続きです。

 岸見先生の説く「民主的なリーダーシップ」に共感するという出雲社長ですが、「実践しようとなると、非常に難しい」と感じるポイントがあると、前回うかがいました。

 具体的には、次の2つです。

【1】 会社で共に働く仲間に対し、怒らないこと。
 → どうしても怒りの感情がにじんで、相手を萎縮させてしまうことがある。
【2】 「ありがとう」をたくさん言うこと。
 → 岸見先生の本を読んで心がけているが、言葉に心がこもらないときがある。

 今回は、最初の悩みについて。これは、『嫌われる勇気』にもある「課題の分離」に関わる問題ですね。

岸見: 「課題の分離」は、本当に難しいのです。

こちらの記事でも触れました。

 「課題の分離」とは、例えば、子どもが勉強しないのは、子どもの課題なのだから、親が口出しすべきではない、といったことですね。ただし、職場の人間関係では、親子関係と違って、部下の失敗などに、上司が口出ししないわけにはいきません。それでも、上司が部下の課題を指摘するとき、叱ったり、怒ったりすることは、あってはならないというのが、岸見先生の考えです。

 しかし、現実に同じ失敗を繰り返すような人がいたとき、怒りの感情がまったく湧かないというのは難しいと思います。

岸見:基本に立ち返るなら、「課題の分離」は、最終的な目標ではありません。究極の目標は「協力」です。

出雲:はい。

岸見:人と人とが協力して生きていくということが一番、大事なのであって、親子関係でも、職場の人間関係であっても、最終的には「協力する」ことが必要です。

 ただ、協力するときに、「誰の課題か」が分からなくなっていることが多いです。だから、もつれた糸をときほぐすように、「これは、あなたの課題」「これは私の課題」というふうに分けてから、協力していかなくてはいけない。

 アドラー心理学では、「共同の課題にする」と言います。

岸見一郎(きしみ・いちろう)
1956年、京都生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健氏と共著、ダイヤモンド社)、『生きづらさからの脱却』(筑摩書房)、『幸福の哲学』『人生は苦である、でも死んではいけない』(講談社)、『今ここを生きる勇気』(NHK出版)、『老後に備えない生き方』(KADOKAWA)。訳書に、アルフレッド・アドラー『個人心理学講義』『人生の意味の心理学』(アルテ)、プラトン『ティマイオス/クリティアス』(白澤社)など多数。
出雲充(いずも・みつる)
ユーグレナ社長 1980年生まれ。東京大学農学部卒。2002年、東京三菱銀行入行。2005年8月、ユーグレナを創業。同年12月、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に世界で初めて成功。起業を志すきっかけとなったのは、東京大学に入学した1998年、インターンシップで訪れたバングラデシュで「日本では出合うことのない、しかし世界に確実に存在する本当の貧困」と出合い、衝撃を受けたこと。ユーグレナ由来のバイオ燃料の開発などでも注目を集める。