東京工業大学の池上彰特命教授と、上田紀行教授(副学長)が、教養について語り合う、シリーズ企画(*)。文庫版『池上彰の教養のススメ』の刊行を機に、あらためて教養の意義を考えました。

 ギリシャ・ローマ時代の奴隷と、組織で働く現代人はどこか似ている。“奴隷”から抜け出し、自由市民になるために、私たちができることとは?

(取材・構成:小野田鶴)

ビジネス書やビジネス誌の世界では、2010年代前半から「教養ブーム」といわれています。そのブームは沈静化するどころか昨今、教養へのニーズはさらに高まっている気がします。

池上彰氏(以下、池上):それには2つの文脈があると、前回、上田先生に整理していただきましたね。「大学側の反省」と「社会の側の需要」の2つです。大学側の反省については、すでにお話ししましたが、社会の側の需要として見逃せないのが、イノベーションです。

 イノベーションと教養といえば、有名なところでは、スティーブ・ジョブズとカリグラフィーですね。

池上彰(いけがみ・あきら)
池上彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト・東京工業大学リベラルアーツ研究教育院特命教授。1950年、長野県松本市生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。地方記者から科学・文化部記者を経て、報道局記者主幹に。94年4月より11 年間「週刊こどもニュース」の「お父さん」役として、子供から大人までが理解できるよう、さまざまなニュースをわかりやすく解説、人気を博す。2005年3月、NHKを退局、以後フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。12年2月から東京工業大学リベラルアーツセンター(現リベラルアーツ研究教育院)教授に就任、16 年から現職。理系の大学生に現代史などの「教養」を教える。『伝える力』シリーズ(PHP新書)、『そうだったのか!』シリーズ(集英社)、『知らないと恥をかく』シリーズ(角川新書)など著書多数。

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