新型コロナ第3波、再度の緊急事態宣言は「あり得ます」
新型コロナとワクチンを巡る「知らないと不都合な真実」その2
(前回はこちら→「英国で接種開始。『9割に効くワクチン』の真実と、今我々がやるべきこと」)
山中(以下、編集Y):峰先生にはロングインタビューでの連載当初から、「いま、ある程度分かっていることをたんたんと、分からないことは『分からない』」というスタンスでお話をいただいているんですが、本(『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』)も出ましたし、今回はあえて、予測をお願いしたいと思います。
峰 宗太郎先生(以下、峰):予測ですか。本の中では追加コンテンツとして、名古屋市立大学教授の鈴木貞夫先生に、「外れない予想」のやり方を伺いましたね。
編集Y:はい。「推測を基に予想をしない」でした。
……大事なのは、データと推測を分けて考えることですね。「分からないけれど、こういうことじゃないか?」という仮定を挟めば挟むほど、確かさは減少しますから。私は基本的には怖がりなので、そういうことをあんまりやらないんです。
(『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』 第8章 根拠の薄い話に惑わされない思考法 241ページ 鈴木貞夫先生の発言より)
峰:そうです。では、推測を可能な限り控えて、現状のデータから予測できることを挙げてみましょう。非常に短期的なところのみになってしまうとは思いますが……。
編集Y:お願いします。
追跡調査の能力が足りなくなると
峰:近々の話、短期予測として考えると、まずPCR検査の陽性率は上がる可能性があるでしょうね。これは流行が拡大しているからです。
編集Y:流行が拡大するから、検査で陽性と出る人が増える。はい。
峰:そこで怖いのは、まず、コンタクトトレーシング(濃厚接触者調査・クラスター対策)のキャパシティー(感染者、濃厚接触者の追跡調査の能力)が足りなくなってしまうことです。これは現実に起こり始めていて、ひどくなればコンタクトトレーシングの対象を絞らなくてはいけなくなる。
編集Y:あっ、コロナ対策分科会の尾身茂会長が12月6日のテレビ番組で「保健所が疲弊して、クラスターの感染源を見つけるという方法が取れなくなっている」と発言していましたね。そうするとどうなるのですか?
峰:そうすると、誰が濃厚接触者なのかが分からなくなる。これは真のピンチです。「PCR抑制派」などと、不本意なラベルを張られている私からしても、です。なぜか、お分かりですか?
編集Y:PCR検査は「検査前確率」が重要だからですね。新型コロナのPCR検査はインフルエンザのPCR検査同様に、「検査すれば白か黒かはっきりする」ものではないので、事前に医師が、対象者が症状や感染しやすい場所にいたかどうかから、検査すべきかどうかの判断を行う(=検査前確率が高いかどうかを判断する)ことが必要。でも、医師にとっても新型コロナは「この人は感染しているかどうか」を見抜くのが難しい。
峰:そうです。濃厚接触者が追えないということは、どの人が検査前確率が高い人であるかを判断する、大きな材料が失われてしまうわけですし、取りこぼしが出てくるということを意味しますよね。
編集Y:なるほど。となれば「じゃあ、疑いのある人全員に検査をやるしかない」という話になりそうですが。
峰:誰が「疑わしいか」を判断することが難しくなる、という話でもあります。そして、そうなると、次にやってくる問題はPCR検査のキャパシティーです。検体がばんばん出るようになってくると、検査が戻る時間、ターンアラウンドタイムですね、TAT。TATが延びる。
※厚生労働省による、国内における新型コロナウイルスに係るPCR検査の1日あたりの最大能力は8万5640人(新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年12月1日版))。1日あたりの検査数は直近では3万~4万件で推移している(同URLの【PCR検査に関する参考資料】を参照)。
編集Y:TATが延びるとどうなりますか?
クラスターが追えなくなれば破綻は意外に近い
峰:そうすると、結果がすぐに出ないわけですから効果的な隔離もできなくなる可能性がありますし、すぐにコンタクトトレーシングもできない。その結果、検査全体の精度ががっくり落ちるんですよ。この場合の精度というのは、PCR検査の精度(感度、特異度)ではなくて、社会的な意義としての検査の精度なんです。
編集Y:検査の精度が落ちると?
峰:そういうことになると、クラスターの把握ができなくなる。つまり「今、どこが流行地なのか」が分からなくなってしまうわけです。
編集Y:詳しくは(もうしわけないですが)書籍で見ていただくのが早いのですが、新型コロナがなぜ手強いかと言えば、感染した人自身の自覚症状も、外から見て「COVID-19(新型コロナに感染した人に出る感染症)」の症状だ、と分かる要素もない人が、大量に存在するので「誰が患者なのか分からない」状況があった。
峰:はい。そして、無症状の人はPCR検査をやっても陽性にならない可能性が大きい。といいますか、ならない可能性のほうがずっと高い。
編集Y:だから、日本、韓国、台湾など比較的新型コロナ感染者を抑え込んでいた国では、クラスターを把握して、濃厚接触した人(=検査前確率が高い人)を中心に確定診断にPCR検査を用いていた。でも、感染者数が増えれば増えるほど追跡が難しくなり、追跡が難しくなると検査数も増え、それで検査が追いつかなくなると……どこで流行しているかも分からなくなる、予想も付きにくくなる、コントロールが完全に効かなくなる、と。
峰:限界はいつ来るかですが、実効再生産数(1人の感染者が何人に感染させているか)が1以上であれば、指数関数的・幾何級数的に患者は増えますので(※)、意外に破綻が早く来る可能性があります。
(※ 感染の増え方は足し算ではなくかけ算になる。実効再生産数が2ならば、1人の感染者が2人に感染させ、その2人が2人に……と、2×2×2……のかけ算で増えていく。『ドラえもん』の秘密道具で、くりまんじゅうが5分ごとに倍倍で増えていく「バイバイン」を想起されたし)
もはや「GoToを止めれば」という段階ではない
編集Y:もしそうなったら、どうすればいいんでしょう。
峰:緊急事態宣言をやるしかないでしょうね。日本で行える実効的な接触制限ですから。そして、(緊急事態宣言は)あり得ると思います。
編集Y:おお……。
峰:「コントロールが効かなくなる」とおっしゃいましたけれど、逆に「コントロールできている」のはどういうことかというと、まず大前提は、国民の多くが予防行動をしっかり取って感染に対する防衛力が上がっている。つまり社会の警戒度が上がることによって抑え込む方向への力が動くということです。そして、クラスターの追跡が効いて、行政による隔離と医療機関への治療入院がしっかりなされるということですね。
クラスター追跡ができなくなれば、PCR検査も、隔離も、治療入院も、すぐにキャパの問題に直面するでしょう。結構危機的な状況になりつつあると思います。少なくとも決して油断していいような状況ではありません。
編集Y:例の「GoTo」を止めれば収まるとか、そういうことは。
峰:いや、これはGoToがどう、という問題じゃないと思います。接触抑制、外出規制という自粛要請の緊急事態宣言になるかどうかというところまで来ちゃっている。
「GoToが原因だったか否か」は既に問題ではなく、検査・対処能力のキャパシティーを危惧すべきフェーズに入っている。感染者は指数関数的に増えるので、今、まだ余裕があるように見えても、あっという間に限界が来るんです。
編集Y:なるほど……。
峰:米国ではもうコンタクトトレーシングをあきらめた州が出ています。完全に放棄して、どうしようもないという州が出ていますし、ドイツもある意味お手上げになりました。つまり患者が増え過ぎちゃって、軽症の人だとか無症状の人まで検査をやっている余裕はもうないと宣言しちゃったようなものですね。
フランスでは、TATが長くなり過ぎてコンタクトトレーシングが有効にできなくなっちゃって……、結局、都市ごとロックダウンしたら感染者数が減ってきたわけです。
編集Y:ああ、なるほど。コントロールを失ったので、ロックダウンして強制的に感染者の増加を止めるしかない、と判断したのがフランスなのですね。
峰:そしてロックダウンしたら新規感染者数の増加が止まったわけです。今、リオープンできそうだという状況になりました。これはそれだけ接触抑制策が効くということなんですよね。検査が破綻したけれど接触抑制をしたらすっと落ちる。
何度も言っているんですけど、検査そのものだけでは感染・流行を抑制する効果はありません。ですから、日本もあんまり流行が拡大するようであれば、接触抑制、自粛要請、緊急事態宣言しか有効な手段はない。もちろんワクチンも今回は間に合いません。
ワクチンが仮に今すぐ打てるとしても、目の前の感染拡大を止めるには、前回申し上げたとおり、まず日常で感染を広げないこと。具体的には以下です。
・手洗い
・3密(密閉・密集・密接)回避
・換気
・マスク
・睡眠、栄養
これらへの意識と、それぞれを持続するためにやり過ぎない、メンタルを維持する、そういうところまで含めたバランスが必要です。それがないと、どんなにリソースを投入しても、結局感染は拡大して、コントロールが効かなくなります。
編集Y:しかしもちろん、経済への影響を考えても、緊急事態宣言を出すのは厳しいですよね……。
峰:経済のお話は、日経ビジネスに寄稿されているそちらの専門の方や読者の皆さんにお任せするしかないんですが、誤解していただきたくないのは、「医療のために経済を止めろ」と言う気は、まったくないんです。
経済と医療は二律背反、でいいわけがない
といいますか、なぜ「医療か、経済か」の選択問題にしようとするのかが本当に分かりません。当然、どちらも満たす策を考えるべきです。その前提として、医療の側の関係者の一人としては「放置しておくと非常にまずい状況になりつつあります」という意見をお伝えさせていただいているんですよね。でも「経済のためにそれを言うべきではない」と言われるとしたら、それは議論の仕方としては間違いだと申し上げますね。
編集Y:それはもちろん間違いです! 二律背反、コストも性能も同時に満たしてこそ付加価値のある「アイデア」であり「イノベーション」です(『マツダ 心を燃やす逆転の経営』。どさくさに紛れてごめんなさい)。
峰:流行を止めることは専門家だけではできません。でも、適切に行動する人が増えれば確実に止まると思います。日本で緊急事態宣言するのは本当にまずいんですよね。まずいというのは、これはもう経済的にもまずいんですけど、自分の立場から危惧するのは、緊急事態宣言も、繰り返すとオオカミ少年化するんですよ、きっと。そして、そうなると政府への不信感も高まってしまうし、感染症対策としての実効性も低下することになる。
編集Y:「無策のツケを、我々の生活に押しつけている」と。そういうリスクもありますね。
峰:政府への不信感が募ると、ワクチンの接種にも大きく影響するでしょう。ワクチン接種というのは、これは行政などに対する信頼感があってこそなんです。
編集Y:あっ、そうか。
峰:これははっきり公にしてもいい裏付けのあることなんです。政府への信頼度とワクチンへの信頼度というのは実はパラレルなんですね(「ウエルカム・トラスト・ファンド」による「グローバルヘルスケア 2018年リポート」など)。
このリポートによると、特に日本とフランスは政府への信頼感が低く、ワクチンへの信頼感も低い。緊急事態宣言が何度も出されてしまうと、「今の政府がやっている医療行政は信用ならない」となって、ワクチンの接種率が伸びない、つまり日本のワクチンによる集団免疫獲得が難しくなる可能性があります。ワクチンの接種率は流行を抑制するための条件として直に効いてきますので、これは大変まずいです。
編集Y:なるほど……。
峰:だから、これは完全に専門外からの僭越な意見ですが、政府は空手形、空騒ぎはしないほうがいいでしょう。GoToも、やるならばちゃんとやって、でも、無理だったらばしっと切って、国民がみんな「政府はちゃんとやる気だし、やっている」と思うように姿勢を切り替えることが必要ではないでしょうか。そうしないと、印象が悪くなり続けているうちに、取り返しの付かない大きな傷になってしまう可能性があるのではないかと危惧します。
日本人がワクチンを
打つ前に知っておくべき
これだけの真実
ワクチンのメリットとリスク
新型コロナの致死率はインフルエンザ並み、なのか?
「核酸ワクチン」は去年までは「遠い未来に実現するワクチン」だった
ワクチンの「効く」「効かない」はどこで見る?
「高齢者だけ厳密に」はなぜ非現実的か
新型コロナを巡る数々の話題を、専門家の峰宗太郎先生と、ド素人代表の編集Yの対談形式でまとめた日経ビジネス電子版で大好評の連載が、大幅加筆を経て新書になりました。
「自分の頭で考える」ために必要な知識に絞り、専門家ではない方でも、ネットやメディアが伝える情報の吟味ができるようになる本です。ワクチンの仕組みやそのメリット、リスクをしっかり理解していないと、最悪の場合「日本だけが新型コロナワクチンを打てない国」になってしまうこともあり得ます。無用な不安にさよならして、誰かの話に簡単に流されたりもしなくなる。新型コロナとインフォデミックを遠ざけ、たんたんと勝ち抜くために必要な知識を凝縮しました。是非ご一覧ください。
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