バイオベンチャー・ユーグレナの出雲充社長は、『嫌われる勇気』の熱烈な愛読者として知られる。その出雲社長が、初めて著者の岸見一郎氏と対談した。

 今回のテーマは「信用と信頼」(前回は、こちら)。

 起業家として、出雲社長がどうしても物申したいのが「銀行の姿勢」。ベンチャー企業に、担保や実績といった「信用」を求めることには矛盾があり、起業を成功に導くには、「信頼」に基づく応援が不可欠だと力説する。

「信用と信頼」が問題になるのは、融資の場面だけではない。ベストセラーになった『嫌われる勇気』も、企画段階ではむしろリスクが高いプロジェクトだった。「信頼」があればこそ刊行できたと、岸見氏は振り返る。

 議論はさらに、親子関係や上司と部下の関係における「信用と信頼」に発展。岸見氏が初めてリーダーシップを論じた『ほめるのをやめよう』を参照しつつ、展開していく。

出雲:経営者として岸見先生の本を読んだとき、強く感銘を受けることの一つに「信用と信頼」があります。

 事業における私の師匠は、18歳のとき、バングラデシュで出会ったムハマド・ユヌス先生です。グラミン銀行という貧者のための銀行をつくり、2006年にノーベル平和賞を受賞されました。

 グラミン銀行という事業の何が画期的であったかといえば、「信用」、すなわち担保や実績ではなく、「信頼」に基づいて融資を行ったことだと、前回、申し上げました。

 そんなユヌス先生との出会いから十数年の時を経て、『嫌われる勇気』を読み、岸見先生の言葉に初めて触れました。最初から不思議と肌になじむ感覚があったのは、「信用ではなく信頼を土台にする」という岸見先生の考え方が、ユヌス先生と共通していたからでしょう。

グラミン銀行と『嫌われる勇気』

「信用と信頼」について、『嫌われる勇気』から引用します。

ここでは「信じる」という言葉を、信用と信頼とに区別して考えます。まず、信用とは条件つきの話なんですね。英語でいうところのクレジットです。たとえば銀行でお金を借りようとしたとき、なにかしらの担保が必要になる。銀行は、その担保の価値に対して「それではこれだけお貸ししましょう」と、貸し出し金額を算出する。「あなたが返済してくれるのなら貸す」「あなたが返済可能な分だけ貸す」という態度は、信頼しているのではありません。信用です。

これに対して、対人関係の基礎は「信用」ではなく「信頼」によって成立しているのだ、と考えるのがアドラー心理学の立場になります。

(編集部注:その場合の信頼とは)他者を信じるにあたって、いっさいの条件をつけないことです。

岸見一郎(きしみ・いちろう)
1956年、京都生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健氏と共著、ダイヤモンド社)、『生きづらさからの脱却』(筑摩書房)、『幸福の哲学』『人生は苦である、でも死んではいけない』(講談社)、『今ここを生きる勇気』(NHK出版)、『老後に備えない生き方』(KADOKAWA)。訳書に、アルフレッド・アドラー『個人心理学講義』『人生の意味の心理学』(アルテ)、プラトン『ティマイオス/クリティアス』(白澤社)など多数。
出雲充(いずも・みつる)
ユーグレナ社長 1980年生まれ。東京大学農学部卒。2002年、東京三菱銀行入行。2005年8月、ユーグレナを創業。同年12月、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に世界で初めて成功。起業を志すきっかけとなったのは、東京大学に入学した1998年、インターンシップで訪れたバングラデシュで「日本では出合うことのない、しかし世界に確実に存在する本当の貧困」と出合い、衝撃を受けたこと。現在、ユーグレナ由来のバイオ燃料の開発などでも注目を集める。
続きを読む 2/5 起業家に担保と実績を求める矛盾

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