ガーナに捨てられた電子ゴミをアート作品に変え、売り上げの大半をスラム街支援に回す美術家・長坂真護さん。新刊『サステナブル・キャピタリズム』では、「資本主義社会から今すぐには抜け出せない。だからこそ、今は文化、経済、環境のバランスを取りながら回していくことが必要」と問いかけた。一方、『人新世の「資本論」』で脱資本主義を説き、大きな注目を集めた斎藤幸平さん。行動することで真理を見つける長坂さんと、理論で世界をリードする斎藤さん。対談の行方は?

(1)斎藤幸平&長坂真護「資本主義に飲み込まれないために」
(2)斎藤幸平「私がイーロン・マスクを尊敬できない理由」
(3)長坂真護&斎藤幸平 脱成長コミュニズムは実現できるか ←今回はココ

問題の「本質」を変えられない歯がゆさ

斎藤幸平さん(以下、斎藤) 私の研究というのは、実際に何かをプログラミングしたり、設計したりして実装するものではないので、抽象的な理論を振りかざして自己満足してしまうことになりかねない。そんな自分に楔(くさび)を打つべく、全国各地の現場を2年かけて回り、その体験を単行本『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』(KADOKAWA)にまとめました。ただ、そんな自分の体験と比べても、真護さんの活動はダイナミックで、僕もガーナのスラム街に行くぐらいの行動力を持とうと誓いました(笑)。

長坂真護さん(以下、長坂) 斎藤さんは自分の理論がどこまで通用するのか実証し、僕は実証から理論を見つけた。初めてゴミで制作した作品が1500万円で売れたとき、「なぜだ!」と考え、資本主義のゆがみが生み出した価値だと気が付いた。だから絵の売り上げはガーナのスラム街に還元しようと。アプローチは違うけど、考えの根底は似ていると思います。

左/現代美術家・長坂真護さん、右/東京大学大学院総合文化研究科准教授・斎藤幸平さん
左/現代美術家・長坂真護さん、右/東京大学大学院総合文化研究科准教授・斎藤幸平さん
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斎藤 ただ、学者は現場に行ってもあくまで学者なんですよね。現場で当事者の話を聞いて本当に多くのことを学びましたけど、自分が何をできるのかという問いにぶつかる。もちろん、資本主義の犠牲になった人々を取り上げ、だから資本主義を放っておくとこういう問題が起きると世間に提示をすることができるけど、でも問題の本質を必ずしも変えることはできない歯がゆさは常にあります。

 しかも、そういう人たちについて書いたりしゃべったりしているのは、彼らを利用していることになるのではという葛藤が生まれる。長坂さんは、そういう葛藤はありませんか?

長坂 いわゆる貧困ビジネスですね。僕も言われたことがありますよ。ガーナの人々を利用して絵を高く売りつけているって。

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