このたび、日経ビジネス人文庫から『池上彰の教養のススメ』が刊行になりました。もともとは今から8年前、2014年に単行本として刊行され、累計10万部を超えるベストセラーになった1冊です。
12年、教養を教える教授として東京工業大学に着任した池上彰先生(現在は、特命教授)。着任から間もない時期に、仲間の先生たちと「教養とは何か?」「教養の本質とは何か?」について考え、語り合ってつくったのが『池上彰の教養のススメ』です。文庫化にあたって仲間の1人、東京工業大学教授(副学長)で文化人類学が専門の上田紀行先生との対談をお届けします。
『池上彰の教養のススメ』が刊行されたのち、ビジネス書の世界では、教養の一大ブームが訪れました。なぜ今、教養なのでしょうか。そして教養を学ぶ本当の意義とは? 池上先生と上田先生と一緒に考えます。
(取材・構成:小野田鶴)
このたび、『池上彰の教養のススメ』を文庫化するにあたって、じっくりと再読しました。文庫化する前の親本を編集したのは、現在は東工大でメディア論を研究する柳瀬博一教授です(当時は日経BPに所属)。驚かされたのは、14年当時、池上先生がこう書かれていたことです。
死に絶えたはずの「教養」に今、急速に注目が集まりつつあります。
ビジネス書の世界では、その後、教養の一大ブームが到来しました。今も書店にいけば「教養」をタイトルに冠した本が多く並び、ベストセラーも何冊も出ています。『教養としてのワイン』(18年刊行、*1)、『教養としての投資』(20年刊行、*2)、『教養としての茶道』(21年刊行、*3)など。かくいう私も教養にはコンプレックスがあり、これらの本をおおいに関心を持って興味深く読みました。
池上:ブームの火付け役の一端を担えたなら、光栄ですね。ただ、ちょっと気になるのは、このごろの教養本のニーズが、「すぐに役立つ教養本」に傾いていないか、ということです。
「すぐに役立つ教養本」ですか。
池上:それって、形容矛盾じゃないかと思うのです。

Powered by リゾーム?