建築家・安藤忠雄氏が、2012年刊の自伝『仕事をつくる 私の履歴書』を改訂し新たに出版した。独学で大阪から世界に闘いを挑んだ80年の歩みを通して、これからの日本を生きる若い人たちを叱咤(しった)する書でもある。安藤氏が共に社会活動に取り組む42歳のユーグレナ社長・出雲充氏と、世代を越えて「面白い仕事」について語り合った。

「気合入れて走れ。ぶつかったら蹴っ飛ばして行け」
出雲充氏(以下、出雲氏):私は「青春」という言葉が大好きで、本を読むときには、松下幸之助翁の「青春」という揮毫(きごう)が入った栞(しおり)を使っているんです。松下幸之助歴史館でもらったものです。私にとって尊敬している神様と言ってもいい幸之助翁は、経営者に贈る言葉として「青春」という言葉を大事にされていた。パナソニックの方に出典を聞いてみると、サミュエル・ウルマンの『青春』という詩だと。安藤さんの新刊『仕事をつくる 私の履歴書【改訂新版】』にこの栞をはさんで読もうとすると、冒頭からウルマンの『青春』が引用されていて、一気に読んでしまいました。
安藤忠雄氏(以下、安藤氏):「希望を心に持ち続ける限り、人間はいつまでも青春を生きられる」。1980年代後半から90年代前半に関西経済連合会の会長を務められた、東洋紡の宇野収さんが訳した詩の一節です。宇野さんが私に「目標があるうちはいつまでも青春だ」と言われたのは80年ごろだったと思います。
敗戦からの復興という目標を掲げて、日本人は高度成長を成し遂げたのですが、お金持ちになった日本人はいつしか目標を見失ってしまった。バブルが崩壊した90年代はじめから、世界の中で日本は落ちっぱなしですが、私は1975年ごろにはすでに、日本人一人ひとりに緊張感がなくなっていたのではないかと感じています。
70年代から80年代にかけて私は、サントリーの佐治敬三さんや宇野さんといった関西の経済人から大いに薫陶を受けました。「おまえは面白いから、学歴なんかはどうでもいい。自分で生きる力があれば、この国では生きていける。気合入れて走れ」といつも叱咤です。「ぶつかったら蹴っ飛ばして行け。ついてくるヤツも時々はいる。いや、ほとんどいないかもしれないが、その方が人生は面白い」と(笑)。
私はその言葉を糧にして建築の仕事をしてこられました。出雲さんのように自分がやりたいことを見つけて、全力で青春をかける若い人がもっと出てきてほしい。『仕事をつくる』は私の80年の半生を振り返った本ですが、そういうメッセージも込めています。
日本人がもう一回気合いを入れるには、これからの社会を担う人たち一人ひとりが様々なことに好奇心を持たなければダメだと思います。人と同じ道は歩まなくてもいいんだ、ということに気づかないと。自分の道を自分で切り開いていく人がいて、ついていく人たちがいるから会社も成り立つんです。そういう気概を持った人が最近はあまり見当たらない。
Powered by リゾーム?