電子ゴミのアートは「人新世」を可視化したもの
長坂真護さん(以下、長坂) 僕は、「電子機器の墓場」と呼ばれているガーナのアグボグブロシーから電子ゴミを持ち帰って作品を作り、その売り上げをガーナのスラム街の雇用創出、環境改善の事業に投資しているのですが、僕の活動を知った人や、僕が提唱するサステナブル・キャピタリズムの概念を説明するたびに『人新世の「資本論」』(集英社新書)を書いた斎藤幸平さんに考えが近い、とよく言われていたんです。だから、斎藤さんにお会いしたいとずっと思っていました。
ちなみに僕が唱えるサステナブル・キャピタリズムとは、「環境、文化、経済」をバランスよく回す社会システムのことです。
斎藤幸平さん(以下、斎藤) 長坂さんの『サステナブル・キャピタリズム』(日経BP)、その行動力に圧倒されながら一気読みしました。上野の森美術館(東京・台東区)で開催された展覧会にも伺いましたよ。

長坂 それはうれしいな。
斎藤 実際に電子ゴミの作品を見て胸に迫るものがありましたが、会場のコーナー奥に満月を描いた作品が展示されていて、その対比にまさに、「人新世」を見た思いがしました。
人新世とは地質学的概念で、人類の経済活動が地球の表面を覆い尽くしてしまった年代を意味するのですが、真護さんの作品は人新世、というかもはや「ゴミ新世」を可視化したものです。その一方で、「月」という人間が変えていない存在の美しさがとても印象的でした。
『人新世の「資本論」』でも書いたように、私たち先進国の豊かな暮らしは、グローバル・サウスと呼ばれる貧しい国の犠牲の上で成り立っている。資本主義はこの現実を隠蔽します。人々がこの過酷な現実について考え始めたら、消費が楽しくなくなってしまうから。でも、真護さんの作品はまさに強烈なインパクトで、この問題への気づきを与えています。私の本とアプローチの仕方は全然違うけど、目指しているところが似ていると親近感を持ちました。
Powered by リゾーム?