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 『嫌われる勇気』をはじめ、多くの著作を持つ哲学者の岸見一郎氏。今年刊行した『ほめるのをやめよう』では、リーダーシップについて、初めて論じた。

 そんな岸見氏が、今どきの中間管理職の悩みや疑問に答えるシリーズの第6回。日経BP・クロスメディア編集部長の山崎良兵が自身の悩みも交えながら、問いかける。

 今回のテーマは、前回に続いて「伸び悩む部下に、どう働きかければいいか」。

 部下に対して、言うべきことを毅然と言うには、日ごろから、良い人間関係を築いておく必要があるという岸見氏。では、いかにして、部下との間に良い人間関係を築くのか。

 今日、部下が出社してくれたことに、感謝せよ。毎日「ありがとう」と言葉に出せ、と、岸見氏は言う。

 その真意とは?

(構成/小野田鶴)

前回に続き、こちらのご相談に答えていきます。

Q.なかなか成果が上がらない部下がいます。

 能力がないわけではなく、むしろ高い能力を持つ人だと私は見込んでいて、それだけに彼がパフォーマンスを上げられずにいる現状がもどかしいです。

 どこに課題があるのかはある程度、見えているので、提案めいた声かけもしていますが、本人のプライドを考えるとあまり直接的には言えません。もっとはっきり言ったほうがいいのかもしれないとも思いますが、正直、悩みます。

まずは前回、岸見先生からいただいた“処方箋”を、まとめてみます。

【1】リーダーには大きく分けて、仕事という課題だけに関心がある「課題達成型」と、仕事という課題よりむしろ対人関係に関心がある「対人関係型」の2つのタイプがいる。そして対人関係型のリーダーは、メンバーに対して、言うべきことを言えなくなりやすい。

【2】部下が失敗したり、伸び悩んだりするのは、上司の責任であり、課題である。そのことを、上司は自覚しなければならない。

【3】部下が失敗したり、伸び悩んでいたりするなら、上司は部下に言うべきことを言わなくてはならない。その指摘を、部下が自分に対する「皮肉や威嚇、挑戦」と受け止めないために、上司は部下との間に「良い人間関係」をつくらなければならない。

 3番目に指摘された「良い人間関係」を構築するには、「相手の言動の適切な面に着目する」という努力が必要、と、おっしゃいました。これは、なかなか深い話である気がします。

岸見:例えば、部下が今日、出社したことに対して、当たり前のことと思わない、ということです。

なるほど。

岸見一郎(きしみ・いちろう)
1956年、京都生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健氏と共著、ダイヤモンド社)、『生きづらさからの脱却』(筑摩書房)、『幸福の哲学』『人生は苦である、でも死んではいけない』(講談社)、『今ここを生きる勇気』(NHK出版)、『老後に備えない生き方』(KADOKAWA)。訳書に、アルフレッド・アドラー『個人心理学講義』『人生の意味の心理学』(アルテ)、プラトン『ティマイオス/クリティアス』(白澤社)など多数。