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「全体として満足感の高い寄席で、半日を過ごしたときに似た楽しさ」

 寄席が好きだ。

 東京ならば、新宿末広亭、浅草演芸ホール、上野の鈴本演芸場、そして池袋演芸場。これらの寄席は常打ちといわれ、毎日昼夜興行を楽しむことができる。

 時に誤解されるのだが、寄席では落語だけをやっているわけではなく、漫才、奇術、曲芸、あるいは紙切り、といった様々な演芸と落語が組み合わされている。

 トリと呼ばれる最後の演者(通常は落語家)以外は、15分ほどの持ち時間でテンポ良く交代していくので、飽きさせない。

 あえて言えば、それぞれが藝をじっくり見せるのではなく、客が肩に力を入れず気楽に楽しめるように気遣いながら、演者みんなで、最後のトリがたっぷり聞かせる(たいていは30分前後になる)ための、その雰囲気づくり、準備作業、をしているようなところもある。

 実際には、席亭と呼ばれる寄席経営者が、出演者たちの所属する落語協会や落語芸術協会と相談しながら、バランス良く演者を配していく。

 いわば、全体を俯瞰(ふかん)したプロデューサー役であり、かつ寄席の収支に責任を持つ経営者であるのが、席亭なのだ。

 『世界最高峰の経営教室』というちょっと堅めのタイトルの本。これを読みながら感じたのは、寄席、それも演者と演目の組み合わせが、ぴたっとはまって、全体として満足感の高い寄席で、半日を過ごしたときに似た楽しさだった。

 様々な領域にわたる個性的な経営学者たちが、定説と新たな理論の両方を説明してくれる。それも大部分は、今の日本のビジネス界の課題認識に即した理論の「読み解き」付きでだ。

 一つひとつが、短めのインタビュー記事として、十二分に楽しめる。

今後考えていくべき領域が明らかに

 さらに、俯瞰して全体を眺めわたすと、もう少しメタ化したテーマに沿って、読者の頭の中が整理整頓できるようになっている。

 優れたインタビュアーであり、かつ敏腕編集者である著者の広野彩子さんが、「席亭」として思う存分腕を振るってくれたおかげだろう。

 新しい知識を得た喜びに加えて、自分の課題認識が整理され、さらに今後考えていくべき領域が明らかになる。

 これらが心地よい読後感と一緒に味わえるのだから、ずいぶんよくできた知的エンタメだな、と思うのだ。

 さて、寄席との違いは、ぱっと見たところ、トリとしてたっぷり語る演者がいないことだ。

 実は、全体の狂言回しとして、ご自分の課題意識と広い経営学領域の知識を生かして、質問と対話を繰り返す広野さんが「隠れたトリ」として機能しているのだが、あくまで黒子役という立場は崩さない。