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人間の価値は、異常事態のときほどよく分かる

赤字会社を立て直すのは自分の役目だという使命感があったのでしょうね。『マネジメントへの挑戦』でも、一倉さんのマネジメントに対する真剣さと情熱が伝わってきました。

山本:そうです。現代でいえば、事業再生コンサルタントです。なので、財務数字にはめっぽう詳しかった。でも、一倉先生は、税理士をメチャクチャ批判していました。「税理士の言うことを聞くと会社が倒産する」と。税理士は数字には詳しいけれど、税法オタクで経営オンチの人が多いからでしょう。税理士は会計専門家ですからしょうがないのかもしれませんが。

 私は税理士として開業した当初から、「決定は、社長自らがしなければならない」「社員は、社長が決定したことを実施する責任しかない」「ハンコとギンコーは大丈夫か」「穴熊社長になるな」「支払手形を退治せよ」など、常に一倉定語録を頭に置き、仕事をしてきました。実務経験上、お客様の夜逃げ、自己破産などつらいこともたくさん経験してきましたが、今考えるとすべて「社長の姿勢」に原因があったのではないかと思っています。一倉先生の本は、是非、同業者の先生方にも読んでいただき、1人でも多くの経営者を救っていただきたいと思っています。

 経営者に必要なのは、会社を社会のため従業員のために何としても存続発展させる、という使命感であり、さらに人生観と宗教観といった哲学が要ると、一倉先生は言われています。

それはよく分かります。京セラの稲盛和夫さんは得度しましたが、そこまで行かなくても、自らの軸を持つために、特定の宗派というものではなく、定期的にお祈りを欠かさない人など、宗教観を持っている経営者はとても多い。

山本:一倉先生は業績の良い会社の社長さんは、神仏をとても大切にしているという話も講義でしています。

 「資金が4カ月続けば、基本的にはどんな会社も再建できる。けれど、どうしても立て直せない会社が3つある」とも言っていいました。それは、第一に「数字を見ない社長」。第二に「お客様のところに行かない社長」、第三に「社員の批判ばかりする社長」です。

 社長が準備した書類を床に投げつけるなど烈火のごとく叱るという厳しい指導をしても、このいずれかの資質が直らない社長に対しては、さすがの一倉先生も再建を諦めたそうです。社長の姿勢が直るか直らないかは、結局、その人の持っている使命感が不足していたり、人生観がどこか間違っていたりするものだと思います。

現在のコロナ禍において、一倉先生ならばどんな指導をすると思いますか。

山本:一倉定語録の中に「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任である」(関連記事)という有名な言葉があります。どんなことが起きてもすべて社長の責任だという意味です。「コロナが原因で売り上げが落ちた」と言い訳をすれば、一倉先生は大声で怒ったのではないかと思います。一倉先生は、自分の会社のことが知りたければ経営計画を作成しなさいと繰り返し言っていました。経営計画は数値計画と経営方針から成ります。コロナによって、市場の影響がどのように出ており、それに対して自社がどのように対応するのかという経営方針(市場計画)を描くことを求めるはずです。

 人間の価値は、平穏無事のときより、社会の断層(急性の大きな異常事態)のときほどよく分かるという趣旨とのことを一倉先生は言っています。今こそ、社長の正しい姿勢とは何なのかを深く考える必要があると思っています。

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「日本のドラッカー」と呼ばれた男
55年前、日本の経営者を震撼させた「反逆の書」が今、よみがえる!

「今読むべき、経営学の源流」
昭和40年、男は一冊の本を上梓した。
そして「中小企業の救世主」として日本の経営学の源流をつくる。
だが、男が嫌った“きれい事のマネジメント論"に
とどまる会社は今もごまんとある。
日本企業の未来を示す古典が復活!

従来のマネジメント論は、
理論としては、りっぱであっても、
現実に対処したときには、あまりにも無力である。
現実に役だたぬ理論遊戯にしかすぎないのである。
現実は生きているのだ。そして、たえず動き、成長する。
……打てば響き、切れば血がでるのだ。
(「序にかえて」より)