「帰国生」の英語力は、本当に高いのか?
「なんだか面倒くさそう……」
そう思われた方もいるかもしれません。そうなのです。第2言語のスキーマを手に入れることは、そんなに簡単ではありません。
それは、親の仕事のために幼少期などを英語圏で暮らした、いわゆる「帰国生」でも同じです。母語が日本語であるかぎり、意識的に英語を学ばなければ、語彙や文法を正しく運用できるようにはならず、英語のスキーマは育ちません。逆に日本でしか英語を学んだことがなくても、母語との比較を通じて、語彙や文法の運用能力を高めていけば、英語のスキーマを獲得することは可能です。
私の周りには、前者の学生も、後者の学生もいます。前者の学生は、日常会話レベルの英語であれば流暢(りゅうちょう)に話します。しかし、本当の意味で英語力が高いのは、もちろん後者です。
そして、スピーキングテストを入試に使うのであれば、後者のタイプの受験生が、正当に評価されねばなりません。
しかし、そうはならないのではないかということを、私は危惧しています。
入学試験は、必要悪である
入試において、何より大事なのは、「採点の公平性と正確性」です。
テストには2つの種類があります。
1つは、「指導のためのテスト」です。生徒が「何をわかっていて、何をわかっていないのか」「どこでつまずいているのか」を知るためのテストです。指導に生かすのが目的ですから、生徒を得点のみで評価し、全体のなかで位置づける必要はありません。ですから、採点の公平性や正確性は問題になりません。点数をつける必要すらないこともあります。私が広島県教育委員会からの依頼を受けて小学生向けに開発した「たつじんテスト」は、「指導のためのテスト」です。
テストをして子どもの解答を先生が見れば、得点をつけなくても、おのずと子どもがどういう誤った概念を持っているかが見えてくるはずです。得点をつけ、子どもを順位づけるより、そのほうがずっと大事なのです。
もう1つが、「選抜のためのテスト」です。受験生を得点順に並べて、上から一定数をすくいあげるためのテストです。本来の教育の目的からすると望ましくありません。しかし、定員が存在し、定員を超える人数を受け入れると教育の質が著しく損なわれるときに、仕方なく実施します。いわば必要悪です。
必要悪である「選抜のためのテスト」では、採点の公平性や正確性が、絶対的に求められます。
そしてスピーキングテストは、公平、正確に採点するのが、ほぼ不可能なテストです。
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