第2言語の習得とは、「スキーマの獲得」である

 人は皆、「知識の枠組み」を持っています。この枠組みは、認知心理学の概念では「スキーマ」と呼ばれます。スキーマは、私たちが言葉を操る際の「システム」と考えるといいかもしれません。

 言語を使うとき、私たちはスキーマにアクセスしますが、アクセスしていることには気がつきません。例えばパソコンで作業をしているとき、画面上の作業の裏でさまざまなシステムが稼働しています。しかし私たちがそれを意識することはありません。言語のスキーマも同じです。私たちが日本語を使うときにそれを意識することはありません。無意識のうちに、正しい日本語が使えるように、私たちの脳のバックヤードで働いているシステムが、スキーマです。

 ただ私たちもたまに、このスキーマの存在を感じることがあります。例えば、外国の人が日本語を話していて、ちょっと不自然な表現をしたとき、私たちはすぐに気がつきます。「背が大きい」と言われれば、「背が高い」の間違いだとすぐにわかります。「それは間違いだ」と瞬間的にわかるのは、日本語のスキーマが働いているからです。

 言語の習得というのは、極論すればこのスキーマをつくることです。

 赤ちゃんは時間をかけて、母語のスキーマをつくります。日本語を母語とする子は、日本語のスキーマを、そして英語を母語とする子は英語のスキーマをつくり上げます。ちなみにバイリンガルの子は2つの言語のスキーマを同時並行で発達させなければならないために、母語習得の負荷が重くなり、言葉や思考の発達が、比較的ゆっくりとしたものになりやすいことが知られています。

 では、母語ではない言語、第2言語を習得する場合は、どうでしょうか。母語のスキーマを参照しながら、第2言語のスキーマをつくることになります。簡単ではありませんが、コツがあります。参考になるのは、フィンランドの語学教育です。私は、今まで多くの国で英語を第2言語とする人たちと話してきましたが、「職業や学歴などに関係なく、幅広い国民が、英語を当たり前に話せる」という意味で、圧倒的に英語力が高いのは、フィンランドだと思います。そんなフィンランドの英語教育は、「英語のスキーマをつくる」ことに重点が置かれ、認知科学の観点から考えても非常に合理的です。

 最初にポイントをまとめておきましょう。皆さんの英語学習にも参考になると思います。

  • 語彙の学習を重視する。
  • 同じ単語をさまざまな文脈で使う練習をする。
  • ライティングに力を入れる。

 順を追って、説明していきます。

『英語独習法』 今井むつみ著(岩波書店)。英語が話せないのは、「認知の仕組み」を無視しているから――。認知科学の知見を英語学習に応用した「合理的な学習方法」を提案。話せる理由と仕組みを解説する。
『英語独習法』 今井むつみ著(岩波書店)。英語が話せないのは、「認知の仕組み」を無視しているから――。認知科学の知見を英語学習に応用した「合理的な学習方法」を提案。話せる理由と仕組みを解説する。

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