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 米国経営学界でそうそうたる受賞歴を持つ、早稲田大学商学部の三橋平教授。日本人には稀(まれ)な「世界標準の経営学者」の一人だ。そんな三橋教授に、あえて「世界標準の経営学」の功罪を尋ねるインタビュー。

 経営思想家のピーター・ドラッカーが、米国の経営学界から忘れられた理由を振り返った前回に続き、今回のテーマは、「科学知 VS 人文知」である。

 米国を中心とする「世界標準の経営学」の世界では、数理的な「科学知」で実績を出すことが、地位や収入、名誉に直結する。それゆえに、科学知に傾倒していったきらいのある米国の経営学界。その現状をどう見るのか。

 「日経ビジネス」の連載「世界の最新経営論」をまとめた新刊『世界最高峰の経営教室』にもコメントを寄せた三橋教授が、経営学界のリアルを明かす。

ドラッカーが米国経営学会から「忘れられた」のはなぜかを、前回、伺いました。そこから見えてきたのは、「科学知 対 人文知」という構造です。

 世界標準のアカデミア(学問の世界)を席巻しているのは、科学知です。XやYを使った関数で示せるような因果関係が示せないと、理論として評価されない。ゆえに、人文知の塊のようなドラッカーは忘れられた。

 一方、日本では近年、教養がブームで、人文知が人気を集めています。

 科学知と人文知のあるべき関係について、どう思われますか。

 

三橋:僕は経営学の中でも組織学習が専門ですが、この分野でよく出てくる話に「T字が重要」というのがあります。

 「T」の字は、ヨコ棒とタテ棒からなります。ヨコ棒を知識の幅、タテ棒は深さとして捉え、このTのバランスを持つ必要があるという考え方です。タテの深さだけがあっても恐らくあまり良くないと。ヨコの広さもあり、バランスが取れたTを描けないとだめだという考え方なのです。

 大学ですと1~2年で一般教養を学びますが、それはTのヨコ棒ですね。それをやった後にタテ棒で、3~4年の専門科目をやると。

 しかし、その順番で学ぶのが本当にいいのか。

三橋平(みつはし・ひとし)
早稲田大学商学部教授
1994年慶応義塾大学総合政策部卒業。2001年、米コーネル大学大学院産業労働関係研究科で博士号(Ph.D.)取得。2000年から筑波大学理工学群社会工学類で専任講師、准教授。2008年から慶応義塾大学商学部准教授、2009年同教授。2019年から早稲田大学商学部教授(現職)。専門は経営学、組織論。 Academy of Management Journal、Strategic Management Journal、Organization Scienceなどの国際的な一流学術誌に論文を多数掲載。2008年、米国経営学会・経営戦略部門最優秀論文賞受賞。2011年、国際経営学会最優秀論文賞ノミネート。2012年アジア経営学会組織・経営理論部門最優秀論文賞。2013年Management Research Review誌Highly Commented論文賞。(写真:稲垣純也)