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ワクワク・ドキドキする国でないと世界の頭脳は集まらない

九門:世界各国・地域で、海外に留学しようとする学生が大学を選ぶ際に、評価の基準となる指標を重視している。それがAPUの競争力につながっているようですね。

出口:アジアの優秀校のトップクラスの学生は、国内の大学を目指さずに、世界的な評価が高いアメリカやヨーロッパの大学に入学しようとします。米国の有名大学の年間の学費は5万ドル(約550万円)、6万ドル(約660万円)程度と高額で、親がお金を出すのは大変です。そこで他の国の大学を探し始める。

 大学界における“ミシュランの三ツ星”がないと大学を選びにくい。世界に2万5000あるとされる大学などの高等教育機関を高校生や親はすべてチェックできません。どこかで良い教育を受けようと考える時、頼りになるのは国際的な評価(“ミシュランの三ツ星”)です。それを獲得していくのがAPUの戦略です。

 APUは米国などの大学と比べると学費が安く、春入学に加えて秋入学を実施しており、さらに英語で入試を受けられるので外国人が入学しやすい。APUの特徴については、書籍『ここにしかない大学 APU学長日記』で詳しく説明しています。

 それでもAPUはおそらくバイパス(迂回道路)の1つで、海外からの留学生は、お金があればアメリカや欧州に向かうでしょう。中国や韓国からの留学生がAPUの成績優秀者のトップ100になかなか入らないのは、両国の優秀層が欧米に留学するからです。中国からは約37万人がアメリカに留学しています。

 つまりベトナムやインドネシアがより豊かになれば、どうなるのか。留学したい学生がどこに行くかを白紙で考えたら、社会全体がワクワク・ドキドキしている経済が成長している国でしょう。日本が優秀な人材を集めるには、経済が活性化する社会をつくっていかないといけません。安全性、気候の良さなどをアピールする手もありますが、実は日本にはワクワク・ドキドキする社会環境がありません。

 この30年間、正社員ベースで平均2000時間という日本の年間労働時間にはあまり変化がありません。経済成長率は1%弱で、長時間働いても全然成長しない。このような閉塞感のある社会に世界の若者が集まるのかという問題です。

 加えて、日本は男女差別が世界で最も激しい国の1つとされています。世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」のランキングで、調査対象153カ国の中で日本は121位だったというのは象徴的です。

 長時間労働で全然成長せずユニコーンが生まれない、男女差別が激しい国に誰が来るのか。アメリカは覇権国家で、人口も大きい。歴史を見ると世界の覇権国家は、近世以降は、ポルトガル、スペイン、ネーデルランド、英国、そして米国へと変わってきました。いずれの国もいったん覇権国家になると人口が減っていきます。アメリカは特殊例外的です。欧州の多くの国は年間の労働時間の平均が1500時間前後で、男女差別もなく2%成長を達成している。日本は基礎的な条件で若者をひきつける魅力がない社会なのです。そういう厳しい現実を正確に認識すべきです。

外国人留学生が30万人を突破しても、世界を見渡すと日本が置かれた状況は厳しく、その事実とまず向き合うことが重要だと指摘する出口学長。次回は、外国人留学生を活かすために日本がどう変わるべきかについて、出口学長と九門教授による対談の続きを掲載します。

30万人を突破した日本で学ぶ外国人留学生!
だが日本を愛する外国人材を活かしている企業は少ない。
日本企業にはどんな課題がありどう変革すればいいのか?
東大などで学ぶエリート留学生の本音から処方箋を探る!

<本書の主な内容>
・30万人の外国人留学生を活かすために何が必要なのか
・東大などの難関大学で学ぶエリート留学生の本音
・日本企業の外国人採用と育成にはどんな課題があるのか
・ポストコロナ時代に異なる才能を持つ多様な人材が力を発揮できるような組織のあり方
・ソニー、日立など外国人を活かす先進企業の取り組み
など