小田中:コロナ禍のこの春、自分なりに感染症の歴史を勉強するにあたって、軸にしたのが「病原体と社会の相互作用」という問題意識です。
感染症は、複数の人間がいて初めて成立する概念であり、社会的な性質を持ちます。感染症の流行は、社会に影響を及ぼすし、逆に、社会の変化が、感染症に影響を及ぼす側面もあります。
そのような相互作用が、どのような局面に現れるか。本を刊行した後、編集者の小野さんとメールをやりとりしながら考えるうち、歴史を振り返ると、次の5つくらいにまとめられるような気がしてきました。
- 感染症と「気候変動」
- 感染症と「都市化」
- 感染症と「移動手段の発達」
- 感染症と「社会階層構造」
- 感染症と「人々の感情」
そこで今回のシリーズでは、この5つのテーマで、池上さんと増田さんに「世界一受けたい授業」をお願いしたいと考えています。
とはいえ、話し始めれば、話題はいろいろ飛ぶと思います。だから、あくまで順不同で、最終的に5つのテーマを網羅することを目指します。
世界的な気候変動が、パンデミックを生んできた
小田中:まずは、「感染症と『気候変動』」から始めましょうか。
小田中先生が本で言及したのは、例えば、「紀元前三千年紀ごろからアフリカでは降水量の減少と、その結果としての乾燥化が始まり、それに伴って、マラリアの感染拡大が始まった」であるとか、「14世紀半ばから平均気温の低下が始まり、世界が『小氷期』と呼ばれる寒冷期に入ったことが、ペストの感染爆発(パンデミック)を準備した」といったことですね。
小田中:池上さん、増田さんは、広く自然環境の変化、あるいはもっと狭く捉えて、温暖化や寒冷化といったことと、感染症の関係について、どんな感覚をお持ちですか。
池上:増田さん、どうぞ。
増田:私からですか?
池上:はい、レディーファーストで。
増田:そう言えば、聞こえはいいのですけどね(笑)。池上さんは、いつもそうやって先に私が話している間に考えて、自分はもっといいことを言っちゃうのですよ。
池上:はい、その通りです(苦笑)。
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