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 バーナードは米国で、確かに授業で読みましたが、あくまでさらっとだったのを、日本では皆がこぞって読みこんで、盛んに議論して、そうか、関心が違うんだなぁと。米国では今は、恐らくもうみんな読んでいないと思います。というか、そういう定性的な本を読んでいると、定量的な分析手法の勉強が間に合わなくなるのだと思います。

近年、米国において主流の「世界標準の経営学」は極めて数学的であると同時に、厳しい競争の世界なのですね。

三橋:僕の時代は、学術誌に査読付き論文を掲載した実績がなくても、良い博士論文を書けていれば就職できたのですが、今の米国はどんどん先に進んでいて、定評のある学術誌に論文を掲載した実績がないと教授職に就職できなくなっているそうです。

そして、学術誌に査読論文を掲載してもらうには、膨大な計量分析をこなさなければならない。相当厳しいですね。徹底的な科学知の競争になっている。

三橋:ですからかえって、日本人が(哲学や文学などの)人文知をしっかりと勉強して、その上で科学知に取り組んでいくようになれば、何らかのアドバンテージがあるのかもしれないですよね。

今の米国では、数学的なイメージが強い経営学ですが、1990年代前半までは、経済学も社会学も数学も混在している雑多な印象の学問でしたよね。例えば、「組織の経済学」の始祖ともいえるハーバート・サイモンやオリバー・ウィリアムソンは経済学者で、サイモンは1978年に、ウィリアムソンは2009年にそれぞれノーベル経済学賞を受賞しています。

人間を究めてロボット研究に向かったサイモン

三橋:実は、サイモンはコンピューターサイエンスでも著名です。慶応義塾大学で働いていたときの塾長が、認知科学研究で知られる工学博士の安西祐一郎先生でしたが、授業で講演していただいたことがありまして。

 安西先生は、当時米カーネギーメロン大学にいた、サイモンの研究室にポスドクとして所属していました(筆者注:1979年にPsychological Review誌に共同論文を掲載)。何をしていたのかというと、ロボットがどうやって人の命令を認識しているのかを学んだのです。ロボットに「あっちに行って、それから右に行って、さらに左に行くんだよ」などと言ったときにきちんと所定の目的地に着くのかという。

面白いですね。きちんと着くのですか。

三橋:人間だと何となく着きますよね。しかしロボットは着かない。では、人間とロボットは何が違うのかと。それを究めると、人間とはどういうものかが分かるという話だったのです。サイモンは、人間探究を突き詰めた結果、ロボット研究に行き着いた。

そうしたこともあり、経営学は当初、いろいろな学問の影響を受けて混沌としていたのが、だんだんと数学寄りになったわけですね。

三橋:米国の場合は、ビジネススクールが巨大化したのが大きいです。ビジネススクールの教授は、ビジネス系の学術誌に論文を出して掲載されないと、終身雇用が得られないし昇進もできない、といったことになりますからね。米国のビジネススクールランキングが、さらに拍車をかけました。大学の制度の影響は、多分にあると思います。(次回に続く)

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