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「世界標準の経営学」における「因果関係の解明」とは、要するに、XとYの関係を計量分析で解明する、というような話ですね。いわば因果関係を、関数に置き換える。

XとYでしか考えられない学者たち

三橋:はい。そういう意味においてドラッカーは、因果関係めいた話はあまり議論していない。その辺がやはり、関心の分かれ目なのかと思います。

 というのも、そういった定量的な分析手法に慣れてくると、だんだん、そうでないものが理解できなくなってきてですね……。つまり、XとYの関係でしか物事を考えられない頭になっていく。何か物語のようなものを読んでいるときでさえ、「この人のこの行動においては、何が変数Xであり、何が変数Yであるのだろう」と読んじゃう。

本当ですか(笑)。曖昧に終わる文学作品の余韻なんて、味わえなくなりますね。

三橋:はい。そういう頭でドラッカーを読むと、因果関係を示すような記述がないので、だんだんと困惑してくるというか、何を言っているのかが分からなくなってくるので……。

やはり味わえない。

三橋:そういう感じですかね。ですから、いいところもあるし、悪いところもある。

それが、「世界標準の経営学」で戦う研究者たちの世界なのですね。計量分析のような科学的なお作法を身に付けなければ、実績が出せない。一方で、文脈の理解能力はさほど求められない。

三橋:多分、年代が上の(1970~80年代から活躍していたような)大御所の頭には、ドラッカー的なものがすんなり入る。それは若い頃に叙述的な本を読んでいたからだと思うのです。しかし(1990~2000年代以降に研究者になった)僕らはもう論文しか読まないので、価値観が大きく違う。

三橋教授は、若い頃に本を読まなかったのでしょうか。

三橋:大学院までは叙述的なものも読んでいましたので、まだ読んでいる方だと思います。現代経営管理の基礎の1つといわれるフレデリック・テイラーの『科学的管理法』も、英語で読まされて悲鳴を上げました。

工場の生産性を管理する方法を説く古典ですね。時間管理、作業の標準化、モノの置き場所といった、定性的な実践論が多い印象があります。

三橋:そうそう。(叙述的でボリュームがある上に)古い英語だからさらに読みにくい。なんとか2ページくらいに簡潔にまとめられないのか、などと思いながら読んでいました(笑)。僕が教わったコーネル大学の教授は、比較的そうした読書を重視されていました。しかし米スタンフォード大学などでは、当時からもう本はほとんど読んでいなかったようです。

 2000年、僕が米国から日本に帰国して最初に驚いたのが、「バーナード研究」が日本でとても盛んだったことでした。バーナードとは、1930年代に『経営者の役割』という大変有名な本を残し、経営者にして経営学者でもあったチェスター・バーナードのことです。