『下町ロケット』や『半沢直樹』シリーズで知られる作家の池井戸潤氏が新作『ハヤブサ消防団』を出版した。池井戸氏と言えば、技術者や銀行マンなど働く人を描いた作品が多い中、今回は、主人公である作家が一見平穏な地方の町で起こる事件に向き合う田園ミステリーだ。
物語の舞台は池井戸氏の郷里である岐阜の山間の町がモデル。ここで暮らす人の日常を読み進めるうち、思わぬ事件が起こり、それぞれが歩んできた人生が明らかになっていく。
プロットを作らずに書き込んでいったという新作について、どのように執筆を進めたのか、また池井戸氏自身を育んだ幼いころの読書体験、さらに本作の一つのテーマでもある、地域とのつながり方について池井戸氏にインタビューした。後編では、第二の人生や、世代交代が進まない組織の問題へと話が広がった。(前編はこちらから)
(聞き手=大谷道子、写真=鈴木愛子)

地域貢献をしたいなら、ぜひ消防団へ!
『ハヤブサ消防団』では、ハラハラする物語の合間合間に挟み込まれる豊かな自然や山のグルメの描写も魅力的です。
池井戸氏:こういう物語は、その町に生まれ育って、今も地元とつながりのある自分のような立場でないと書けないと思います。その意味では、オリジナリティーのある小説になったと思います。
地元の人たちは、都会の人たちは知らないいろんなことを知っています。僕の地元では地蜂を食べたりするんですが、それがどこにいるのか、獲るときはどんなことに注意すべきか、といったノウハウは地元の人にしか分かりません。小説にも、主人公の三馬に田舎暮らしのあれこれを伝授する人々が登場しますが、彼らは僕の友人たちそのもの。今も祭りの手伝いなどには参加しているので、同世代の友人たちだけでなく、地域の人たちと広く付き合いがあります。
現役引退後は故郷や田園地帯へUターン、Iターンして、そこで地域貢献をしながら第二の人生を送るのも悪くないな……と想像してしまいました。
池井戸氏:地域貢献をしたいというくらい意識の高い方なら、答えはもう決まっています。「消防団に入る」!(笑)。会社の同僚や部下は引退後数年しか付き合ってくれませんし、同窓会だけでは世界が広がらない。その点、消防団なら、地元の様々な年代、職種の人たちと触れ合い、ネットワークを広げることができます。若者にとっては面倒くさいかもしれませんが、様々な理由で飲み会にも事欠かないのも、熟年世代にはうれしいところじゃないでしょうか。
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